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Caetano Veloso&David Byrne『Live At Carnegie Hall』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/05/29   22:03
ソース
intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)
テキスト
text:梶丸基史(新宿店)

2004年のカーネギーでのライヴがCD化

考えてみれば、似た者同士のふたり。片やブラジル音楽にロックを迎えた男、片やロックに世界の音楽を開いた男。ふたりともより広い視野に立って、時にロマンチックに、時にノスタルジックに、また時には前衛的なまでに未来の音楽を夢想し続けてきたのだ。これまでにも様々な形でコラボレートしてきたふたりだが、本作はその一つの集大成ともいえる2004年カーネギーホールでのライヴ共演作。序盤カエターノ、中盤バーン、終盤に共演、それぞれ3分の1くらいずつで最後に1曲ずつそれぞれのソロ、という構成。

気になる曲目はというと、ふたりとも代表曲連発で調子も上々。若干のチェロ(ジャキス・モレレンバウム!)やパーカッションでの味付けはあるけれど、基本弾き語り。贅沢なものです。例えば、カエターノ《Voce e Linda》。チェット・ベイカーが歌ったらどうか、と思わせるくらいの「粋な男」っぷり。例えば、バーン《Road to Nowhere》の性急で、汗の飛び散るような熱演。あるいはふたりで歌う《Um Canto De Afoxe Para A Bloco Do Ile》での繊細で遊び心あるハーモニーだとか。大人に、ダンディに迫るカエターノ、「永遠の青年」と言いたくなるバーン、シンプルなセットの分ふたりの持ち味が存分に味わえる。そして、ふたりの音楽からは濃密でいて品の良い色気が振りまかれていて──。

ジム・ジャームッシュの新作『pina ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』には、カエターノが本作でもやっている《O Leaozinho》で踊るシーンがあった。とても美しい印象的なシーン。一方デヴィッド・バーンの独特のダンスもよく知られるところ。音楽のあるところ人は踊り、人の踊るところ色気はある。いわば人類共通の根源的な表現として人は歌い、踊る。ふたりが似ているのは結局のところ、そういうごく基本的な表現欲求に忠実なだけかもしれない。

しかし、なぜこれだけの音源が8年間も発表されなかったのか。あるいはなぜ今発表されたのか。そのわけは不明だけど、この8年間は熟成期間と考えよう。酒や味噌と同じく熟成させた分だけ、ここにある音楽はまろやかに深みを増して至福の時を約束してくれるはずだ。

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