共振する新世代トリオの筆頭格
アメリカの公共ラジオ局NPR(National Public Radio)は、音楽系コンテンツが豊富で、ニューヨークの名門ジャズクラブからのネット中継を堪能できたりもする。先日も老舗『ヴィレッジ・ヴァンガード』からライヴ中継をしていたので覗いてみると、クレイグ・テイボーン(P)のトリオが出演中だった。ジェラルド・クリーヴァー(ds)やトーマス・モーガン(b)を擁するトリオでのプレイは、録音こそないが、手に汗握る素晴らしいパフォーマンスであった。
彼や、ジェイソン・モラン、そしてこのヴィジェイ・アイヤーを聴いていると、ジャズピアノの世界が、ものすごいスピード感で確実に変化しつつあるように感じる。ビル・エヴァンス、ハービー・ハンコック、マッコイ・タイナー、チック・コリア、そしてキース・ジャレットら、ジャズピアノの名スタイリスト達からの影響は、彼らのプレイからは、ほとんど感じることはない。一方で、彼らのプレイから感じるのは、デューク・エリントンやファッツ・ウォーラーなどモダンジャズ期以前のピアニスト、ハービー・ニコルス、セロニアス・モンク、アンドリュー・ヒルといったモダンジャズ期の個性派ピアニスト、そしてヘンリー・スレッギルやムハエル・リチャード・エイブラムスといったシカゴ系フリージャズの流れをくむ理論家たちからの濃厚な影響だ。
さらに、見逃せないのは、彼ら抜きではそれぞれのトリオが成立しないほどの存在感を発揮しているドラマー達の存在だ。「1、2、3、4」とはっきりとグルーヴを刻むことなく、トリッキーなポリリズムを恐ろしく深化させた彼らのお抱えドラマー達。先述のクリーヴァーしかり、ナシート・ウェイツに、本作のマーカス・ギルモアらのブッ飛びぶりは、トニー・ウィリアムスやジャック・デジョネット出現の比ではないほどに、進化しているように聴こえることすらある。
2009年、海外では各誌の年間ベストを軒並み獲得した前作『Historicity』から3年、「2012年の1枚」に相応しいヴィジェイの充実作の登場だ。