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THE BEACH BOYS

連載
NEW OPUSコラム
公開
2013/06/13   00:00
ソース
bounce 345号(2012年6月25日発行号)
テキスト
文/北爪啓之


時計の針がふたたび動いた瞬間、そこには眩しいほど美しいコーラスとメロディーが溢れ出し……



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ここ2~3年のインディー・ポップ界隈ではビーチ・ボーイズ(以下BB5)を引き合いに出されるバンドが実に多い。例えばベスト・コーストやドラムスなどサーフ・ポップの一群、ビーチ・ハウスを筆頭としたドリーム・ポップ勢、あるいは一部のチルウェイヴやシューゲイザー・バンドたち……。そこで比較されるのは実際のサウンド云々というより、〈ビーチ〉〈サーフ〉〈インドア〉〈ストレンジ〉といったタグによって形成された、〈観念のBB 5〉である。もはやBB5という名は完全にポップ・アイコンであり、一種の伝説なのだ。まあ、それも当然といえば当然。彼らは偉大ではあるが、過去のバンドなのだから。

……というような状況下で奇跡のように届けられたBB5のニュー・アルバム『That's Why God Made The Radio』は、ブライアン・ウィルソンが復帰したうえにプロデュースまで手掛けた、すべて新曲の素晴らしい一枚だった。冒頭曲の美しいコーラス・ワークから瞬時に〈あの夏の感じ〉へと引き込まれたら、後はもう懐かしいのに新しいサニーサイド・ポップのオンパレードだ。ブライアンだけでなくマイク・ラヴやアル・ジャーディンもしっかりリードを取っているのが嬉しいし、類い稀なヴォーカル・グループとしての力量と現役感には思わず舌を巻く。そして終盤の3曲では“Surf's Up”などを思わせる、インドアでイマジネイティヴな魅力に溢れたサウンドを披露。BB5に求められる多様なイメージ(先述したタグのような)を巧みに投影しつつ、さらに現在の自分たちなりに消化した本作は、キャリア中でも屈指の完成度を誇るアルバムに違いない。

BB5が伝説の衣を脱ぎ捨てて眼前に立ち現れたことは、若手のインディー・バンドにとっても大きな刺激になったはず。今後より活性化しそうなシーンのなかで、本家を含め、新たなサマー・アンセムが続々と生まれることを期待したい。



▼関連盤を紹介。

左から、ベスト・コーストの2012年作『The Only Place』(Mexican Summer/PIAS)、ビーチ・ハウスの2012年作『Bloom』(Bella Union/Co-op)、ブラックバード・ブラックバードの2011年作『Summer Heart』(PLANCHA)、ブライアン・ウィルソンの2011年作『In The Key Of Disney』(Walt Disney)、2011年にリリースされたビーチ・ボーイズの編集盤『The Smile Sessions』(Capitol)、ビーチ・ボーイズの71年作『Surf's Up』(Brother/Reprise)