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古き良きアメリカン・ポップスを新しい刺激に変えるポップ・エトセトラ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2012/06/13   17:58
更新
2012/06/13   17:58
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文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、モーニング・ベンダーズからポップ・エトセトラへ改名して届けられた初めてのアルバム『Pop Etc』について。そこには、古くなったと思われても変わらず愛されるものーー普遍的なアメリカン・ポップスがあって……。



2000年代のギターで奏でるドリーム・ポップの傑作『Big Echo』のようなアルバムを期待していたら、スクリッティ・ポリッティの『Cupid & Psyche 85』のようなデジタルな打ち込みでびっくりしました。 ヴォーカル/ギターのクリストファー・チュウのギター、好きだったのにな。

クリストファー君は、スクリッティ・ポリッティを全然知らないんだと言ってました。他の人からも「スクリッティ・ポリッティみたいだね」と言われたりしているそうです。

クリストファー君はツアー中、自分が子供の頃にラジオで流れていた曲をなにげに聴き出したら〈いいな〉と思って、80年代や90年代の音楽に興味を持つようになって、それが『Pop Etc』となったみたいです。

UKでは〈ベンダーズ〉という言葉がゲイを蔑む言葉ということでポップ・エトセトラと改名したわけですが、モーニング・ベンダーズ改めポップ・エトセトラの音楽って、僕はずっとUKオタク的な感じなのかなと思っていたら、アメリカン・ポップスだったんだな、と。彼らの音楽の良さの秘密がちょっと理解できたような気がしました。ドラムスやガールズ、MGMTとの違いはここなんだなと思いました。

デブでレズビアンという暗い少女時代を送ったゴシップのヴォーカリスト、ベス・ディットーに勇気を与えてくれたのは、MTVで観られるUSとは違った価値観のUKの新しいアーティストたちだったそうだ。僕もそんな感じで、違った価値観の音楽に救いを求めていたのか、UKの音楽やUSの音楽を自分を救ってくれる救世主のように聴いてきた。

今回のポップ・エトセトラの新作を聴いて、彼らがやってきたことはそういうことじゃなかったんだなと思った。彼らはずっと、自分たちの側にある音楽をやってきただけなのだ。そう思った時、このアルバムも名盤『Big Echo』もより輝いて聴こえてきた。

初作『Talking Through Tin Cans』のジャケットも、どんな子供でも遊んだ糸電話のおもちゃだった。僕らの子供の頃は危なかったから紙コップだったけど。でもそのジャケットを見たら、空き缶でもやってみたくなった。ポップ・エトセトラのようなリヴァーブがかかった音に聴こえるのかな。

ポップ・エトセトラがやっているのは昔からずっとそこにあるアメリカのポップスだ。フィル・スペクターも、マドンナも、ポップ・エトセトラも、みんな同じラインに流れているアメリカのポップスなのです。

それはきっと、映画「トイ・ストーリー」のおもちゃ箱みたいなものなんだろう。古くなったと思われても、いまも永遠に愛されるもの。

今回のジャケットに使われたキーワード――ロック、ヒップホップ、ソウル、ファンク、レゲエ、ブルース、テクノ、ニュー・エイジ、パンク、ディスコ、フォーク、カントリー、ジャズ、ハウス、サイケ、R&B――は、みんな彼らのおもちゃなのだ。ポップ・エトセトラはこういうおもちゃを使って、僕らに新しい刺激を与えてくれるのだ。