ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、〈フジロック〉への出演を間近に控えたゴシップのニュー・アルバム『A Joyful Noise』について。そこには〈クラブ・ミュージックの泣き〉を纏ったディスコ・サウンドがあって……。
ゴシップ、3年ぶりの5枚目のアルバム『A Joyful Noise』がむちゃくちゃ良いです。
2曲目の“Perfect World”とか泣ける。こういう下がっていくコードに僕はむちゃくちゃ弱いんです。
80年代のゴス・バンドによくあったコード進行ですよね。サイケということなんですけど。クリームの“White Room”とか、あとコードは下がっていかないですけど、ヤードバーズの“Heart Full Of Soul”に影響されたストゥージスの“Search And Destroy”とかの泣きのメロディーな感じですよね。これにも弱いです。
シスター・スレッジの“Lost In Music”な感じですか、僕はこのへんの音楽が大好きなんですよね。家でも、クラブでもいちばんアガる曲はこういう曲なんですよね。47歳のちいさな太ったおっちゃんが踊っていても気持ち悪いですけど。
ペット・ショップ・ボーイズやカイリー・ミノーグ、ニュー・オーダーのプロデューサーで有名なゼノマニアのブライアン・ヒギンズが今回は本当にツボを心得たいい感じに仕上げてくれました。
前作『Music For Men』のプロデューサーはリック・ルービンで、名盤『Standing In The Way Of Control』のインディー・ファンクというか、ゴスというか、ホワイト・ファンクというか、ベースがブリブリいっていた感じをそつなくまとめた感じでしたけど、リック・ルービンがプロデュースしたレッチリの『By The Way』のような、80年代のポスト・パンクを上手く現代に甦らせたような感じにはならなかったの残念です。
でも、今作『A Joyful Noise』は、ブライアンがニュー・オーダーの感じを、そしてニュー・オーダーが影響されたイタロ・ディスコの感じをよくやってくれています。レッチリの『By The Way』もジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーな感じがあったんですけど、さすがの天才リック・ルービンも、イタロ・ハウス、クラブの音までは作り上げられなかったということですね。
77年くらいからずっとディスコやクラブに行ってきた人間にとっては、〈わかっているな〉と涙が出るアルバムです。
ヴォーカルのベス・ディットーが〈ゴシップの曲のインスピレーションはどこからきているの?〉と訊かれて「〈別れ〉ね。あと〈テストで落第したときの感情〉よ」と言っているように、〈クラブの泣き〉ってこれなんですよね。さまざまな意味におけるマイノリティの人たちの切なさーー例えば、ホモセクシャルの人たちの実らない恋の切なさなどが、ディスコ/ハウス・ミュージックの基本だと思うんです。デヴィッド・ゲッタ、スクリレックス、解散したスウェデッシュ・ハウス・マフィア、デッドマウスなどのいまのUSやヨーロッパを席巻するEDMことエレクトリック・ダンス・ミュージックにはこれがない。それが、僕には残念です。ゴシップにはそこを変えてもらいたいです。今回のブライアンの起用はEDMのマーケットを考えた結果だと思うので、USでもガツンといってもらいたいです。
もちろん、〈フジロック〉のライヴも楽しみです、でも、USのチャート・アクションがいちばん楽しみかな。エクスタシー前夜のクラブ・シーンに戻ってほしいです。