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Yuri Popoff『ルア・ノ・セウ・コンガデイロ』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/06/27   20:39
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
text:ケペル木村

これぞ、ザ・ブラジル音楽

世界中の音楽が容易に入手出来るようになった昨今では聴いたことのない音楽と巡り会う機会が激減しているように思う。音楽体験の多いリスナーの耳には今の音楽が新鮮味に乏しいと感じるのではないだろうか。新奇な音楽ならば何でもいいというわけではないが、珍しくてなおかつ良質な音楽を求めるリスナーにお勧めしたいのがこの『ルア・ノ・セウ・コンガデイロ』。一般的にはあまり知られていないブラジル内陸部ミナス・ジェライス州のアフロ起源の伝統音楽を基にして、旧ソ連のウクライナ地方からの移民の末裔であるユリ・ポポフが制作したものであり、混血文化の象徴たるブラジルでしか生まれ得ないオリジナルでユニークな音楽だ。

ミナス・ジェライス州は歴史的にゴールド・ラッシュがあったり、19世紀にはコーヒー豆の最も大きな生産地だったので、労働力としてアフリカから連れて来られた黒人たちが使われた結果、アフリカの文化が色濃く定着した土地でもある。特に太鼓が生み出す強烈なリズムは黒人たちなしには根付かなかった。そこにヨーロッパの移民たちが持ち込んだ旋律や和声などと混血して出来上がったのがショーロやサンバ、ボサノヴァやMPB、セルタネージョやフォホーなど、現在のブラジル大衆音楽だ。この作品にはインディオのトゥピ語で歌われた曲もあるし、ミナス奥地の祝祭音楽も含まれている。ユリがガットギターとヴォーカル、作詞作曲も担当。妻でフルート奏者のレナ・オルタ(トニーニョ・オルタの妹)やユリの盟友でもあるマルコス・スザーノらも参加しており、アフロ系ポリリズムに絡む木管楽器のアンサンブルも興味深い。何度聴いても飽きないし、始めから終わりまで清冽な印象を残してくれる。

ミナス音楽と云えばミルトン・ナシメントやトニーニョ・オルタが有名だが、これからはユリ・ポポフの名前も記憶に留めておいて欲しい。どなたにも楽しんでいただける面白い作品としておススメします。