二人の異才の絆が生んだロックなお伽噺
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2008年、イタリアの映画監督、パオロ・ソレンティーノは『イル・ディーヴォ』でカンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞。その時、審査委員長だったショーン・ペンは『イル・ディーヴォ』を気に入って、ソレンティーノに「いつか一緒に映画を作ろう」と声をかけた。そして、それから1年後、ソレンティーノは完成した脚本をペンに送り、ペンは約束どおり出演を快諾。そんなふうに二人の異才が出会って生まれたのが『きっと ここが帰る場所』だ。ペンが演じるのはキャリア全盛期に引退したロック・ミュージシャン、シャイアン。ペンがミュージシャンを演じる、と聞けば、ペンの兄でシンガー・ソングライターのマイケル・ペンのことが頭に浮かんだりもするが、映画に登場するシャイアンは黒ずくめのゴス・ファッションにメイクという、キュアーのロバート・スミスからヒントを得た想定外のヴィジュアルだ。
ある事件をきっかけに音楽活動を引退したシャイアンは、消防士の妻ジェーンとダブリンにある豪邸で二人暮らし。友人といえば、近所に住むロック少女メアリーくらいで、シャイアンは近所のショッピングモールでメアリーとお茶をしたり、儲からない株に投資をしたりと生気のない日々を送っている。そんなある日、30年以上会っていなかったニュー・ヨークに住む父親が危篤との知らせが届く。飛行機嫌いなシャイアンが船でようやく駆けつけた時には、父親は息を引き取ったあと。父親の遺体と対面したシャイアンは、腕に入れられていたタトゥーから父親が戦時中にアウシュヴィッツに入れられていたことを知った。さらに葬儀の日、シャイアンはナチハンターのモーデカイ・ミドラーから、父がアウシュヴィッツのSS隊員、アロイス・ランゲを探し出して復讐しようとしていたことを聞かされた。意を決したシャイアンは、父が遺した日記を手掛かりにランゲの足取りを追ってアメリカを旅することに……。
ロック・ミュージシャンがナチス戦犯を追いかけるロードムーヴィー。そんな不思議な物語を様々な音楽が彩っていく。なんといっても、映画のタイトルはトーキング・ヘッズの名曲《ジス・マスト・ビー・ザ・プレイス》からとられているが、トーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンが本人役で出演。ショーン・ペンと共演したり、映画タイトル曲を劇中で披露したりもする。昨年、08年のコンサートを記録したドキュメンタリー『ライド・ライズ・ロウアー』を発表したバーンだが、この映画で見せるパフォーマンスも凝ったセットで見応え充分。さらに、シャイアンにプロデュースを依頼するインディー・バンド、ピース・オブ・シットの曲を、なんとボニー・プリンス・ビリーとバーンが共作。二人は「20代の未熟なロック・バンド」を意識して曲を作ったらしいが、ソレンティーノとペンのコンビに負けない異色のコラボレーションだ。
そういえば、映画の後半、アメリカのローカルな風景を舞台にしたドラマは、どこかバーン監督作『トゥルー・ストーリー』を思い出させるが、名優ハリー・ディーン・スタントンが出演していたりと(ソレンティーノは本作を撮っている時、スタントンが出演した『ストレート・ストーリー』をどこかで意識していたとか)、ソレンティーノの映画的記憶を通じてアメリカのイメージが織り込まれているようなところもある。そして、滑らかに移動するカメラ・ワークが捉える美しい映像や簡潔にしてユニーク語り口など、ソレンティーノの個性が際立つなか、ペンはいつもどおりの緻密な役作りで子供の頃の純真さを持ち続けるシャイアンというキャラクターを肉付けしている。劇中で、子供にせがまれてギターを弾きながらタイトル曲を歌うシーンや、ホテルの部屋でイギー・ポップの《パッセンジャー》にあわせて独りで踊るシーンでは、ミュージシャンとしてのシャイアンの横顔を覗かせたりも。旅を通じて父のことを考え、自分が子供を作らなかったことを後悔するシャイアンが、旅を通じて様々な人々と出会い、そこで得たものとは何だったのか。雄大なアメリカの風景を舞台にシャイアンの内なる旅を見つめた本作は、ソレンティーノがアメリカ映画に捧げた現代のお伽噺といえるかもしれない。
監督・脚本:パオロ・ソレンティーノ
音楽:デイヴィッド・バーン/ウィル・オールダム
出演:ショーン・ペン/フランシス・マクドーマンド/ジャド・ハーシュ/イヴ・ヒューソン/ケリー・コンドン/ハリー・ディーン・スタントン/ジョイス・ヴァン・パタン/デイヴィッド・バーン
配給:スターサンズ、セテラ・インターナショナル(2011年 イタリア=フランス=アイルランド合作 119分)
◎6/30(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマライズにてロードショー!