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Floratone『Floratone Ⅱ』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/07/02   16:52
ソース
intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)
テキスト
text:杉山文宣(新宿店)

リー・タウンゼント、タッカー・マーティンを擁するグループの2作目

Floratone_II

映画監督ガス・ヴァン・サントは、郊外を舞台に抑圧された「弱者たちのアメリカ」を描き、『エレファント』はパルムドールも受賞、現在の評価はとても高い。1998年公開のリメイク版『サイコ』は評判が悪かったが、オリジナル『サイコ』や『悪魔のいけにえ』で取り上げられたエド・ゲイン事件をアメリカーナ的に展開させた傑作でもある。それに一役買ったのがビル・フリゼールで、ラストのロングショットに重なるビルのギターは大きな意味を担っていた。

ビル・フリーゼルはジミー・ジュフリーやジム・ホール、パット・メセニーの系譜に連なる、ブラックネスとは違うジャズのありかたを模索するひとりだ。フローラトーンはビルに加え、敏腕ドラマーのマット・チェンバレンに、リー・タウンゼント、タッカー・マーティンのプロデューサーコンビの4人によるグループ。5年振りの2作目となる。ビルはリーと常にタッグを組み、タッカーはスフィアン・スティーヴンスなどを手掛けてきた。いわば両者ともに「アメリカーナ」な人物だ。また鬼才ジョン・ブライオンやロン・マイルズなどもゲストとしてクレジットされている。

サウンドの中心はマットで、独特のループっぽいドラムにビルのギターが絡み、リズムを刻む。そこにリーとタッカーのポストプロダクションが加わる。ビルはピースのひとつに徹している。

前作は曲タイトルに《ミシシッピ》《スワンプ》といった南部なフレーズが散りばめられ、アメリカ音楽の源流に思いを馳せてしまう作品だった。だが新作は曲タイトルも抽象的で、まるで「何処でもない場所」へ音を投げかけるかのようだ。ビルにはかつて『Nashville』という作品もあったが、だんだん「土地」に拘泥しなくなってきた。リメイク版『サイコ』のラストで、陰惨な事件現場が、何処にもあるような「アメリカ」の風景に溶け込んでいったように。それは何処でもあって何処でもない、「アメリカ」のサウンドトラックとして聴こえてくるように感じる。