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綾戸智恵

カテゴリ
o-cha-no-ma ACTIVIST
公開
2012/07/04   19:37
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
文/南博(ピアニスト/作曲家)

デビュー15周年、いやいや20周年以上でしょう!?

綾戸さん、デビュー15周年おめでとうございます。まさに光陰矢のごとしですね。初めて関西で綾戸さんに会ったときから、僕は世の中こう来なくちゃいけないと思っていました。

提灯記事を書くつもりはありませんが、この人が世に出ないのはおかしいとずっと思っていたのです。世の中は、不条理や理不尽だらけで、僕の思い通りにならないことだらけなのは当たり前です。しかし、その中で一人、その理不尽と不条理に立ち向かい、歌い続けた綾戸さんは、僕の中ではやはり希有な存在です。勿論、ご本人の努力、瞬発力、頭の回転のものすごい速さがこの世の常識をぶち破る起爆剤であったのでしょうが、それ以外の面でも、僕の知らないところで、綾戸さんは、綾戸さんなりに逡巡していた筈です。ですが、綾戸さんの場合、考える前に行動に移してしまうので、僕の知らない逡巡も、その行動力で押し倒してしまったのでしょう。そうでなければ15周年なんていう一区切りは付かなかった筈です。

もう綾戸さんのことに関して、心配したり、面倒を見ることもなくなった僕ですが、ここではっきり言わせてもらえれば、綾戸智恵はデビュー20年以上ですよ。何故かといえば、国民的スターになる前に、僕と一緒に演奏し、歌っていたではありませんか。その頃の事を綾戸智恵のアマチュア時代と書く者も居りますが、僕はそのことに、いつも腹立たしい思いを抱いてきました。あの頃の綾戸さんは、今よりはじけていて、今より自由だったと思います。そして、聴衆からお金を取って、ちゃんと歌っていたのです。アルバイトで給食のおばさんをやろうが、遊覧船のガイドをやろうが、ちゃんと歌うときにはプロとして聴衆からお金を取って演奏してきたではありませんか。それをアマチュア時代と称するのであれば、クラシック界を含め、演奏のみで生活できない音楽家は皆アマチュアということになります。ですから僕の今の心境は、15周年おめでとうございますと共に、LAで歌っていた十代後半の頃を含めずとも20周年以上おめでとうございますと言いたい心境なのです。

今から考えれば、信じられないことかも知れませんが、車移動で、ずいぶん地方を回りましたね。良くやったツアーは、ベースを水谷浩章氏にして、彼の車で東北を走り回ったこともありました。綾戸さんは不思議と、僕が彼女の横に座って会話するとき、関西弁は使いませんでした。

「ミナミ君のピアノは面白いよ。だから自信を持って、もっと私の歌に突っ込んできてよ」
「突っ込むとは?」
「私をヴォーカリストとして扱いすぎるのよ。トランペットやサックスと一緒に演奏しているつもりで演奏すればいいのよ」
「本当にそれでいいんですか」
「今晩の演奏場所で分かるわよ。私も自由に歌うから、あんたも自由に弾きなさいよ」
「いや、もう十分、自由に弾いているつもりなんですが」
「まだまだまだ! もっと好きにやっていいから。私の歌を邪魔するようなことをしてもいいのよ。私そういう音が出たときの方が燃えるの」
「燃えるって、ウタバンは、歌手が歌いやすいように演奏するものだと、僕は思っていましたが」
「あんな、はっきり言って、英語が喋れん女の子がジャズヴォーカルやっているのよ。ミナミ君、もっと好きなように演奏してよ」
「じゃあ、ピアノのクラスターからいきなり演奏を始めてもいいですか」
「面白そうじゃない? それやろうよ、今晩の演奏で」
「本当にいいんですか?」
「いいのいいの、そのほうが私燃えるからって言ったでしょ」

その晩、宮城の角田市にあるクラブで演奏しました。水谷君と最初に打ち合わせをしておいて、二人でノンコーダルなフリージャズっぽい演奏からスタート。ステージ袖の綾戸さんはそれを聴いてニヤッとしてから、両手で指パッチンしつつ、上体をかがめてステージ中央へと向かいます。そして僕の方をちらっと見て、口だけあかんべーをする。もっと何かヤッテという誘いである事は、もう既に何度も演奏していたので瞬間的に関知し、僕が水谷氏に目で合図を送り、フリージャズ風というよりも、もろにフリージャズな演奏を始めました。鍵盤の上に指を滑らせながら、綾戸さんの方を再度凝視したら、にこっとして、ものすごいスキャットで、我々の演奏に絡んできました。

「シャビヅビシャバシャビヅダー! シャッパパパドレミラレソッ!!! ウパッパーパ!! イエー!! こんばんわーアヤドです! 聴きに来てくれておおきにー!! さあー! ミナミ君、最初の曲ナニやる!!?」

僕は演奏しながら喋れない質なので、アワアワとなっていると、「この男!ピアノはうまいけど、アホなんでッせー! モルモットのネズミがピアノ弾いてるように痙攣しますさかい、よう見ときいや!! こら!!モルモット!! 返事せんかい!! あれ、返事がないですねえ!! この男、ピアノ取りあげたらタダのアホでっせ!! ッセッセッセッダヴィダヂュァシャバダバ!!」

綾戸さん。僕、綾戸さんと演奏できて、本当に楽しかったよ。




『デビュー15周年コンサート “Wonderful World” 』

07/01(日)文京シビックホール 大ホール(東京)
07/14(土)防府市公会堂(山口)
07/15(日)島根県芸術文化センターグラントワ(島根)
09/02(日) 下妻市民文化会館(茨城)
09/14(金) 北國新聞赤羽ホール(石川)
09/15(土) ハートピア春江(福井)
10/13(土)浦安市文化会館(千葉)
10/21(日)グリーンホール相模大野(神奈川)
※翌春まで全国でコンサート予定  
http://chie-ayado.jimdo.com/concert/




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