チャン・ギハと顔たちでギタリスト/プロデューサーを務める日本人メンバー・長谷川陽平が、ソウルはホンデに集まるミュージシャンの生態に迫る連載! 第2回は、ソウルのミュージシャンならではの呑みニケーション、〈汽車道〉で繰り広げられる酒宴のお話です。
さて……今回は私が弘大に来たばかりの頃の話を絡めつつ、こちらのミュージシャンに愛されるスポットを紹介しようと思います。こんな話をする時には、ブランデーならぬソジュ(焼酎)を片手に、といきたいところですな。
私がまだ弘大に来て間もない頃……ですから95〜6年頃だったと思いますが、日本から通っているような状態だったので当然まだ家も借りておらず、ビザなしで滞在が可能だった期間ギリギリの2週間をホテル(といっても、まあそう言うにはアレな感じですが……)で過ごしている時期でした。現金一括全額先払いにして宿泊料をまけてもらい、そこを拠点にライヴハウスやらレコード屋やらを回って、〈韓国〉を知りたい一心で猛烈に動き回っていた頃でありました。
ちょうどインディー・ブームでもあったので、毎日のように弘大のライヴハウスへ出向き、いろいろなバンドを観に行っていたのですが、まあそんな私に興味を持ってくる連中が出てくるわけですよーー〈変わったヤツが毎日ライヴハウスに出没するぞ〉と(笑)。で、声を掛けられるようになったんです、ある時を境に。
「どっから来たんだ?」
「日本」
「何しに来た?」
「バンドを観に来た」
ーーお互いたどたどしい英語で話した後、決まって相手から出る言葉があるんです。
「You!!……Let's drink together!!」
(笑)……で、いつも連れて行かれたのが、弘大と新村(シンチョン)の中間あたりにある〈汽車道〉付近。いまはすでに撤去されてしまったのですが、昔は貨物列車が通る線路があったので、〈汽車道〉と言われてまして……。いまでも古株の〈弘大人間〉には〈汽車道〉で通じるわけです。ここには〈塩焼(ソグムクイ)〉と言われる、ドラム缶を改良した卓に七輪を乗せ、豚肉を網で焼いて食べる店がズラッと並んでおり、ピークの時間帯にはこの一帯が煙と肉の匂いで充満するくらいの煙がモクモクと立ち上がる、まさに〈韓国の庶民の焼肉〉を楽しめる場所。
ここでもう、毎日のように……いや、まさに毎日呑んで食べてましたねえ(笑)。お金がないなあとか、何かおもしろいことないかなあ……なんて思った時にはこの道に行くんですよ。すると、あちこちの焼肉屋の店内から、〈おい、ハセガワ! 何やってるんだ!! ちょっと食ってけ!!!〉と声がかかるわけです。で、ふと見ると昨日いっしょに呑んでたヤツが、同じ格好をしてまたベロベロの状態で座って手招きしてたりとか、〈おい、アコギ持ってこい!!!〉と弟分に命令し、いきなり店内で弾き語りを始めちゃったりとか……当然そうなると夜明けまで許してもらえないパターンでして……日の出と共にホテルへ戻るのが日常でしたね(笑)。まあ、〈犬も歩けば棒に当たる〉なんて言いますが、この道に来ると、〈棒〉どころか〈鈍器による強打〉に近いような、衝撃の経験も数多くいたしました。私はこの汽車道と共に育った、と言ってもいいでしょう。
現在は再開発もあってか、一時期よりも焼肉屋は減り、何軒かが根強く残っているという感じです。メニューもソグムクイがメインでしたが、いまは牛の焼肉や、豚の皮焼(コラーゲンたっぷり。酒に合います!!)など、かなり幅広くなりました。時代の流れからか、少し洗練された感はあるものの、あの時の〈ワイルドサイド的弘大〉の匂いは感じ取れると思いますので、ぜひ一度、訪れてみてくださいませ!!
PROFILE/長谷川陽平
韓国のバンド、チャン・ギハと顔たちのギタリスト兼プロデューサー。95年に韓国へ移住し、トゥゴウン・カムジャやサヌリム、ファン・シネ・バンドなどで活動。現在は他にもミミ・シスターズや美男美女の〈美男〉ギタリストを務めたり、若手パンク・バンドのルック&リッスンのプロデュースなども手掛けている。最近は7インチ病。8月12日(日)の〈サマソニ〉東京公演にて、チャン・ギハと顔たちが〈ISLAND STAGE 〜ASIAN CALLING〜〉に出演決定! いつもここでつぶやいてます→twitter.com/#!/lghopper_yohei