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ヒップホップの持つ歌心で自身の起源を示したダーティ・プロジェクターズ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2012/07/12   12:30
更新
2012/07/12   12:30
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文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ビョークとの共作アルバムも話題となったダーティ・プロジェクターズの新作『Swing Lo Magellan』について。そこにはヒップホップの持つ歌心と、〈自分たちが何者であるか〉の素直な表現があって……。



1曲目“Offspring Are Blank”からヤラれてしまいました。初期ヒップホップを思わせるぶっといリズム・マシーンのキックと、絡み付くようなデヴィッド・ロングストレスの――あの、デヴィッド・バーン直系のメロディーと歌声。

デヴィッド・ロングストレスは〈新作『Swing Lo Magellan』は歌のアルバム〉と言っていて、〈彼はヒップホップのビートが持っていた歌心をちゃんと理解しているのだ。偉いな〉と思っていたのも束の間、クイーンのブライアン・メイも真っ青な歪んだギターが入ってくる。〈うわっ、この展開“Bohemian Rhapsody”か!〉と思ってしまう。もう1回言います。ヤラれました。ダーティ・プロジェクターズの初のヘヴィー曲、大成功です。

2曲目もヒップホップが得意とした素なドラムの音を聴きながら——そのグルーヴに酔いながら生まれたような曲。以前紹介したポップ・エトセトラのアルバム『Pop Etc』もそうだったが、いまのブルックリン周辺のオルタナティヴなポップ・ミュージックは、本当にヒップホップに影響されている。コーラスにオートチューンをかけたような感じもまさに、現代の(メインストリームの)ポップ・ミュージックという感じだ。ちょっと前にビヨンセの携帯プレイヤーにはMGMTが入っていると聞いたけど、USでは僕が思っている以上に融和が進んでいるようだ。

3曲目“Gun Has No Trigger”も、やはり素のドラム・サウンドだ。そこにビートルズっぽいメロとコーラスが入ってくる。それにオートチューンがかかっているのがまさに〈いま〉という感じだ。

そう言えば60年代のモータウン全盛の頃も、ビートルズやザ・フーなどのブリティッシュ・ロック勢やヤング・ラスカルズやタートルズなどのアメリカン・ロック勢が見事にリズム&ブルースと融和していた。そして22年後、タートルズの音楽はデ・ラ・ソウルにサンプリングされた。このグルグル回っている感じがいいな。

4曲目“Swing Lo Magellan”もまた、ブレイクビーツの生ドラムに、バーズのロジャー・マッギンが弾くようなギターと歌だけ。でも、これがいいんだ。いやー、もう1回書いてしまいますが、ヤラれました。

ヒップホップが生まれたあの頃に、なぜ、この手法に気付かなかったんでしょう。あの頃はラップの過激さばかりに耳がいってしまっていたんでしょう。LLクールJが“I Need Love”を出した時、〈ヒップホップもバラードができるんだ。ヒップホップは凄いぞ〉と思ったんですけど。

いまダーティ・プロジェクターズの音楽を聴いていて思うのは、ちょっとしたアイデアで音楽がどこまでも広がっていく感じ。しかも、すごくリアルなのだ。正直言うと、ダーティ・プロジェクターズの音楽はいろんな音楽を採り入れながら独自のスタイルを築いているけど、それはトーキング・ヘッズ/デヴィッド・バーンがやっていたことの焼き直しというか、真似なのかなと僕は思っていたのです。でも『Swing Lo Magellan』の素晴らしさは、USのルーツ・ミュージックというか、自分たちが何者であるかを素直に表現した『Little Creatures』以降のトーキング・ヘッズと同じリアルさを感じる。〈AとBを足したらCが出来るだろう〉という考え方じゃなく、Aから始まる新しい音楽の冒険。

残りの曲は皆さんで確認してみてください。音楽好きだったら、絶対楽しい旅になること間違いなしです。

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