ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第2回は、音楽がナチュラルに存在する街・京都で歌う安藤明子を紹介します
いま、私はラジオのお仕事で月に一度京都に行っています。毎週土曜日の夕方にKBS京都ラジオという地元のAM局で、この4月から〈Kyoto Jumble Street〉という番組のナヴィゲーターをやらせていただいているのですが、これが毎回大きな発見だらけでとにかくとても楽しい!
高校まで京都に暮らしていた私にとって、北と東と西を山に囲まれ、御所を中心に碁盤の目のように美しく通りが交差したあの街は、いまも東京と同じくらいに大好きな場所。どの景色にも思い出があり、愛着があり、親しみがあり、京都出身者、京都在住者というだけで20%、30%も贔屓目が増してしまうくらい、むやみに京都には甘い私だったりします。そういえば、この連載の担当編集者・K嬢と2年前に勢いでいっしょに京都へ行ったことがありましたが、夜、先斗町付近でご飯を食べた後も、おっと無意識に……という感じで、ホテルとは反対側の、昔住んでいた家の方向に足が向かうところでした。K嬢には恥ずかしくて黙ってましたけど。
さて、ラジオの収録で訪ねる機会が増えたこともあり、いまは京都で中古のマイ自転車を調達して、暇さえあれば音の鳴る場所を求めて市内をグルグル回っているのですが、京都では街のなかに何の違和感もなく音楽が溶け込んでいたりします。音楽が鳴る場所というのがライヴハウスやクラブ、カフェはもちろんのこと、例えばお風呂屋さんや古本屋さん、あるいはお寺さんや神社だったり、場合によってはそこらの路地や道端だったりするという不思議。東京でも池上本門寺などでライヴが開催されたりしますが、京都の場合、イヴェント性はほとんどなく、何となく街のあちこちで音楽が鳴っているという状況があったりします。それも手作りのお菓子やキャンドル、古本や中古レコードなどといっしょに雑貨感覚で音楽が響いている。私が高校の頃もこんな感じだったかなあと、ン10年前に思いを馳せつつも、いや、こういう状況にはここ最近より拍車がかかってるのでは?と、自転車で街を転がしているうちに気付いたわけです。
そういうなかで出会ったのが安藤明子というシンガー・ソングライター。2010年に初作『オレンジ色のスカート』をリリースし、現在は活動停止中だそうですが〈くすぐる〉というユニットでも『くすぐるのアルバム』を今年1月に発表している彼女は、普段、ヴェテランのフォーク・シンガーでもあるオクノ修さんが店主の〈六曜社〉という老舗喫茶店でアルバイトをしています。その合間合間に、大きなアコースティック・ギターを片手に、実にフットワーク軽く歌を歌いに出向きます。呼ばれればどこにだって行くし、手作りのヘンテコなイヴェントでも歌います。私のやってるラジオ番組にもふらりと来て歌ってくれました。身の回りのささやかな生活から湧き出てくる心の機微を素朴なメロディーとちょっとウィットに富んだ言葉で綴る……という図式は、決して目新しいものではありません。ある意味でどこにでもある歌だったりもするし、いつ誰が歌っていてもおかしくない歌でもあります。でも、だからこそ彼女の歌にはリアリティーがあるのです。それは、そこが京都という街だから。そう、京都はいつ誰がどこでどんなふうに音を鳴らしていてもまったく不思議ではない、奇妙な調和を持った街。安藤明子さんが京都を歌う場所に選んだのも、もしかすると他愛ない音楽と街の親和性を感じ取ったからなのかもしれません。
バンビーノのバンヒロシが彼女をプロデューサーとしてバックアップしていたり、そのバンヒロシとも交流のある小西康陽が彼女の歌に心酔したという噂が流れたり……と、大人の男の人に可愛がられる、言わば〈妹キャラ〉でもある安藤明子は、毎月さまざまな場所で歌っています(過去にmonaのコンピへソロ曲を提供していたりも)。ときどき東京や他の街に行くこともあるようですが、彼女の歌はやっぱり京都の街の風情が似合うのです。
路地を覗くと安藤明子の歌が聴こえてくる。振り返るとアコギを抱えてニコニコしている、太い眉毛が愛らしい彼女がいる――いまの京都行くと、安藤明子の音楽がいかに街へ染み入っているかに気付かされる、きっとそんな体験が待っているはずです。