ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、〈レコード・ストア・デイ〉用にリリースされたアナログ盤がこのたびCD化されたフレーミング・リップスのコラボ・アルバム『The Flaming Lips And Heady Fwends』について。そこには60年代の若者たちが夢見たコミュニティーがあって――。
ピンク・フロイドの『Dark Side Of The Moon』を丸ごとカヴァーしたり、24時間で8か所のライヴをしたり、その狂気ぶりは止まることを知らないフレーミング・リップスですが、やっていることがすべてかっこいいです。全部尊敬してしまいます。いまいちばん尊敬しているバンドです。
『The Flaming Lips And Heady Fwends』もそんなふうに尊敬できるアルバムです。
いろんな人たちとコラボしているんですが、この作品はダウンロードのために経営が苦しくなっているレコード屋さんをサポートするために作られた2枚組レコードをCD化したアルバムです。
海外ではレコード屋さんを助けようと〈レコード・ストア・デイ〉という日を設け、ダウンロードじゃなく、お店に行かないと買えない商品をいろんなアーティストが作り、いままでサポートしてくれたお店の人たちを助けようという動きがあります。
日本のアーティストたちも、もっとお店を助ける動きをしてもいいと思うんです。お店とアーティストの関係はいろいろあったと思います。でも、なんて言うのかな。お店がなくなっていくというのは悲しいことじゃないですか。自分たちのコミュニティーがなくなっていくような気がするんです。
フレーミング・リップスなどの海外のアーティストたちは、ビジネスというより、そういうところに反応しているんだと思います。フレーミング・リップスが映画「クリスマス・オン・マーズ」を撮ったのも、そうした自分たちの住んでいるコミュニティーがなくなっていくのが悲しくて、自分たちの周りの人間たちと映画を作ったのが始まりでした。
いまのフレーミング・リップスのライヴなんかもまさにそうですよね。世界中の人たちを巻き込んで、自分たちの村祭りを作っていく感じ。ヒッピー臭いと言えば、ヒッピー臭いんですけど、これ以外に僕たちが楽しく生きていく方法はないのかなと思っています。もう会社というシステムもダメになるだろうし、〈99%運動〉をしている人たちはそういうことに気付いているんだと思います。反原発なんかもそうなんでしょうね。
ケシャ、ボン・イヴェール、ニック・ケイヴ、ライトニング・ボルト、プラスティック・オノ・バンド、ネオン・インディアン、エリカ・バドゥなど、錚々たるメンバーが参加して、どれも見事にグシャグシャで、サイケで、ヘヴィーで、ミ二マルな感じに仕上がってます。ボン・イヴェールはあんまりうまく混ざっていないような気もするんですが、そういうのもご愛嬌。僕がいちばん好きだったのは、プラスティック・オノ・バンドです。
プラスティック・オノ・バンドとのコラボは、『John Lennon/ Plastic Ono Band』と対で出された『Yoko Ono/ Plastic Ono Band』に入っていたPILも真っ青のファンク・ナンバー“Why”みたいで大好きです。フレーミング・リップスとプラスティック・オノ・バンドが見事にブレンドすることはあたりまえのことなのかもしれませんね。ヨーコさんが60年代から70年代にかけて夢見たことですもんね。他のアーティストはフレーミング・リップスの妄想にまだちょっと躊躇している感じがして、そういう部分も聴いていて楽しかったりします。フレーミング・リップスを触媒に、今度こそ、60年代に若者が夢見たことが実現したらいいなと思います。