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Various Artists『EL TRIANGULO DEL FLAMENCO』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/07/27   22:52
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
text:佐藤由美

アンダルシア、フラメンコ三都のふれあい街歩き

フラメンコ最大の商業都市セビージャ、熱き宴の故郷ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、歴史的に開かれた流行発信地だった港町カディス(愛称カイ)。アンダルシア州3つの重要拠点を旅しながら、揺籃の地でいかに、今なおフラメンコが土地人に慈しまれているかを捉えんとする、風通しの良い録音物の登場だ。

できる限り空気感ごと切りたいとの制作側の意図ゆえか、敢えて個人宅やオフの店に仲間を集めて録音の場とし、座興を再現しているのが面白い。犬の吠え声や虫の音、時間帯によっては雀のさえずりも、歌とギター演奏の輪に加わる……と、日常と隔絶せず、独特の演出効果をあげている。生々しさの真骨頂は、ディスク1の前半部、雑談混じりのざわめきからギター、続いて歌が立ちあがる場面だろう。〈ファンダンゴ〉一節の前、「ここはパコ・トロンホが歌うべきだよな」と、この曲種に秀でた先達の名を挙げ、はたまた「レバンテ(東部地方)の歌はいい」などと共通認識を口にしては彼ら、場の雰囲気をより濃密にしていくのである。

ディスク1では、中盤にアラブ気風を宿す〈サンブラ〉などギター独奏が3曲、後半に興趣あふれる3歌曲が続く。人気の高いアルカンヘルの声を、ずっと柔らかく甘美にしたようなビセンテ・ヘロの歌は魅力だ。

ディスク2冒頭の3曲は、ディスク1序章でハーディ・ガーディと打楽器を使い、聖週間の行進をアラブ流に料理した、現代デュオによるオリジナル。中盤で5曲をつとめる女性歌手カルメン・デ・ラ・ハラは、本作中もっとも知名度のある演者だ。90年代から何作もアルバムを発表しており、カディス出身者ならではの、粋で洒脱な味わいを披露する。名ギタリストはフアン・ホセ・アルバ。終盤2曲が、風格あるセバスティアン・クルスの歌、ドイツ人ギタリストの伴奏。広汎な曲種を網羅したぶん、強烈な地域色(特にヘレス)は望むべくもないが、国際市場で有名な演者ばかりがフラメンコの担い手ではないと、気づかされるはずである。