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Sara Watkins『Sun Midnight Sun』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/08/14   16:36
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
text:五十嵐正

パンチ・ブラザーズファンの皆様、こちらもお忘れなく

近年のブルーグラス/オールドタイムの発展形的なニュー・アコースティック・ミュージックの隆盛は、00年のメジャー・デビュー・アルバムを百万枚売ったニッケル・クリークのこの種の音楽では異例なほどの大成功が先導したと言えるはず。07年の解散後は、クリス・シーリーがパンチ・ブラザーズを率いて大活躍。ショーンとサラのワトキンス兄妹はウェストハリウッドのクラブ(08年に小劇場に移転)ラルゴでワトキンス・ファミリー・アワーの名称で様々な客演を迎えて定期出演し、LAのアーティストのハブ的存在となっている。昨年のサラはデセンバリスツのツアーにも加わり、歌とフィドルに加え、複数の楽器もこなして大きく貢献した。

『Sun Midnight Sun』はサラ・ワトキンスの3年ぶりとなる2作目のソロ・アルバム。前作のプロデューサーは自ら手を挙げたゼップのジョン・ポール・ジョーンズだったが、今回は現在最注目のギタリスト、ブレイク・ミルズが担当し、半数の曲をサラと共作した。兄ショーン、ワトキンス家の一員を自称するフィオナ・アップル、今夏のツアーに同行するジャクソン・ブラウン、ドーズのテイラー・ゴールドスミス、ハートブレイカーズのベンモント・テンチといったラルゴの常連でもある仲間たちが参加している。

彼女の童顔そのままの愛らしい歌声は年齢を重ねて情感を増しており、ミルズはエッジのあるサウンドを与えることで、音楽にさらなる陰翳をもたらす。フィオナと高速で駆け抜けるエヴァリー・ブラザーズの《ユーアー・ザ・ワン・アイ・ラヴ》はラヴソングというよりもオブセッションの告白に聞こえるし、60年代のポップのような仕上がりのウィリー・ネルソンの《アイム・ア・メモリー》は別離の歌だが、後悔するのはそちらの方といった感じで、サラはこれまでとはちょっと異なる顔も見せている。自分の歌の世界をもっと広げようとする彼女の挑戦的な姿勢が優れたアルバムを作りだした。

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