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ジャネット・ウィンターソン作『カプリの王さま』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/08/16   13:05
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
text:コトリンゴ

イギリスの小説家ジャネット・ウィンターソンの初の絵本は、大人もドキッとする寓話作品

ものにあふれた環境では、決して満足することのない欲が、つぎからつぎから出てきます。

ふと気づくと、私の小さな部屋には、一年のうち一度も着なかった洋服や使っていない電気製品、置き場所のないぬいぐるみ。もう開くことはないであろう本が、滅多に開けない引き出しにあふれかえっているのです。

本当に必要なもの以外はなんとかしないとなあと思って、時間がある時に少しずつ整理をしているのだけど、その次の日にはまた何か、似たようなものを買ってきてしまって「あれ…?」と思ったりします。本当に必要なものは、数えるほどしかないはずなのに、あれもこれも必要だと思ってしまうのは、どうしてなんだろう。

この本に出てくるジュエルおばさんは、ありのままを楽しんでいます。自分の仕事のことも、飼い猫ウォッシュと分け合う少しのご飯も。

ある朝、急に大金持ちになっても、ちっともその状況を不思議だと思わずに(笑)、気前よくみんなと分け合いながら暮らし続ける様子も、どこか茶目っ気があって、面白い。

それとは逆に、王様は食べても食べても、まだ食べたりず。

そしてジュエルおばさんが着ている自分の服を見ても、「昔似たような服を持っていたよ。」と気づかないところも面白く、王様を憎めず。
決してその時の状況に満足することはなく、変わることを常に夢見ている王様的生き方とその時その時の状況に満足して楽しむ、ジュエルおばさん的生き方、これからの世界を生きてゆくには、どちらがいいんだろうとふと思ったりもする。

そして一見、今の生活や自分のあり方を考えさせられる様な内容に見えるこの物語は、実は、答えを求めている訳ではなく、フィナーレは、あらら、なんともチャーミング! 私の読みは見事に裏切られました。この本がまるでジュエルおばさんのようでした。ある朝、こんな事も私たちに起きるのかもしれない。とてもカラフルで、お茶目な物語でした。

ジュエルおばさんは、王様になんて答えたんだろう?