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ドビュッシー、音楽と美術ー印象派と象徴派のあいだで

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公開
2012/08/27   12:27
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
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文/小沼純一 (音楽・文芸批評家/ 早稲田大学教授)

フランスのオルセー、オランジュリー美術館との共同企画

ドビュッシー生誕150年は、たとえばドイツ系の「大」作曲家たちのアニヴァーサリー・イヤーに較べると、特にコンサートやレコードにおいてはいまひとつ盛り上がりに欠けるとの印象を持っていた。現在のさまざまな音楽への影響の大きさからいえば、ドビュッシーのほうがよほど、とおもいつつ。だが、そうだ、こういう催しが可能なのだ。つよく、それでいて静かなインパクトを与えてくれる展覧会が。

ドビュッシーをめぐることどもで目にしたことや文字で読んだものが「そこ」にある。

ホンモノもあるし、似ているけれども違うものがある。ホンモノ/ニセモノ、レプリカであるかないか。そんなことは気にならない。こうした「もの」たちがドビュッシーというテーマのもとに、いくつかの部屋にまとめられ、みられる。これが貴重だ。

19世紀から20世紀にかけて、新しい音楽のありようを提起したドビュッシー。伝記や評伝、さまざまな資料がこれまでに出版されたし、映像でもみることができた。そうしたところで何度も目にしている写真がある。ああ、これは知っている、とおもう。ドビュッシーとサティがならんでいる写真。ストラヴィンスキーが椅子に座り、そばにドビュッシーが立っている写真。そうした写真のなかにうつりこんでいるモノがここにある。これなのか、とおもわず近よって、これが作曲家のふれたものかとおもう。およそ100年前には、ドビュッシーの指が、これにふれたのか、と。

さらにはドビュッシーが身をおいていた場、作曲家が抱いたさまざまなイメージを喚起したようなモノたちが集まっていて、展覧会に足を運んだひと、「わたし」がそうした場に身をおける、身をおいていられる。ひとつひとつの作品をじっくりとみる。その楽しみも味わいもある。そうしたことと併せて、ドビュッシー自身がどんなものを吸収しどんなものをアウトプットしていったか──いや、自らがドビュッシー「になる」、ドビュッシーに化してしまうことだって、ここではできるのではないか。

この展覧会が「ドビュッシーとその時代」ではないところがポイントだ。マネ、モネ、ドガ、ルノワール、ヴュイヤール、カイユボットといったフランスの印象主義系の、ドニやカリエール、ルドンといったフランスの、ロセッティやバーン=ジョーンズといったイギリスの象徴主義系の美術家たち、さらにロダンやクローデルの彫刻、ガレの工芸品がある。これらは同時代の作品。さらに古代エジプトやギリシャ、東洋の作品やオブジェ。それらはドビュッシーの古代趣味や東洋趣味を自ずと照らしだすのだが、そうしたものを「古代への回帰」や「アール・ヌーヴォーとジャポニスム」といったかたちで、テーマ別に、わかりやすく展示する。当然そこには、ドビュッシー自身のメモやサイン、作品のスケッチや出版譜などもならべられる。カエルのかたちの文鎮「アルケル」(《ペレアスとメリザンド》にでてくる王の名!)や、「眠る中国人のいるインク壺」、さまざまな陶器、広重の版画、扇子にサインの入っているもの、気になるものを挙げていったらきりがない。

この展覧会からごくごく自然に、違和感なく、美術館の常設展にはいっていけるのもうれしい。さらに階下のミュージアム・ショップでは、ドビュッシーの顔をイラストにした可愛らしいロゴマークがクリアファイルやメモ帳、さらには金太郎飴になってミュージアム・ショップにならんでいる。1.5センチほどのカタログはとても充実していることも強調しておこう。

本展覧会は、フランス本国のオルセー、オランジュリー両美術館との共同企画(同時に、ブリヂストン美術館開館60周年)。6月までオランジュリー美術館──ご存知、モネ晩年の『睡蓮』連作が展示されている──でおこなわれていたものが、唯一東京では開催されているのである。けっしてお世辞でも広告でも何でもなく、こうした貴重な展覧会がおこなわれていることに、東京もまだ捨てたものではないと、おもわずにはいられない。

図版:
「海―3つの交響的スケッチ」1905年、楽譜、個人蔵
マルセル・バシェ『クロード・ドビュッシーの肖像』 1885年オルセー美術館蔵
ⒸRMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ブリヂストン美術館開館60周年記念 オルセー美術館、オランジュリー美術館共同企画
ドビュッシー、音楽と美術 ー印象派と象徴派のあいだで

10/14(日)まで開催中! 10:00〜18:00(毎週金曜日は20:00まで)
入館は閉館閉館の30分前まで 休館日月曜日(ただし9/17、10/8は開館)
会場:ブリヂストン美術館
http://debussy.exhn.jp/


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