ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、セルフ・タイトルを冠したデビュー作でいきなり世界的な賞賛を獲得したXXのニュー・アルバム『Coexist』について。彼らのサウンドには、『Movement』期のニュー・オーダーが持っていたメロウネスと実験性が備わっていて――。
〈次の曲は、まあまあ有名な曲かもしれないけど〉〈この曲は有名な曲じゃないけど、ケミカル・ブラザースとやったから、知っている人もいるかもしれないね〉などと、東京の〈SUMMER SONIC〉では謙虚なMCをしまくったニュー・オーダーのバーナード・サムナーだけど、ステージはすごくウケていて嬉しかったです。大阪はどうだったんでしょうか? 関西は昔からジェイムズ・ブラウンとか凄く盛り上がる気質の土地なので、ニュー・オーダーもウケたと思います。
若いファンにニュー・オーダーの名曲が気に入られているのが嬉しかった。いま流行りのEDMことエレクトロニック・ダンス・ミュージックが聴けるカルヴィン・ハリスが、ニュー・オーダーが終わるまで満杯にならなかったというのは、ニュー・オーダーとカルヴィン・ハリスが完全に同じファン層な気がして嬉しかったです。
〈ダンス・ミュージックは永遠に不滅です〉という感じでしょうか。と言いつつも、別にニュー・オーダーはすべてがダンス・ミュージックじゃないんですよね。ポスト・パンクと言いましょうか、エレクトリック・ミュージックといいましょうか、クラウト・ロックといいましょうか……不思議なバンドです。
この前、モーターヘッドのレミーの伝記映画「極悪レミー」を観ていたら、ニュー・オーダーを追い出されたピーター・フックが〈ニュー・オーダーの“Everything Goes Green”などの曲は、〈(レミーがいた)ホークウィンドをパクろうとしていただけだ〉と発言していてびっくりしました。サイケデリックをニュー・オーダーがやろうとしていたのは衝撃でした。パンクにとってサイケは敵だと思っていたのに、自分たちの音楽に採り入れようとしていたなんて。あの頃、遠い島国に住んでいた僕にはわからないことでした。
バズコックスのピート・シェリーがカンのライナーノーツを書いたり、P.I.Lが完全にカンだったことから、カンは凄いバンドだということはわかっていたのですが、カンとホークウィンドのミ二マルのかっこ良さを完全に理解するには、ROVOの登場を待たなければなりませんでした。ステレオラブじゃ、まだ僕はわかりませんでした。
そんな歴史のある偉大なニュー・オーダーなんですが、そんな彼らに匹敵するかっこ良いバンドと言えば、XXなんじゃないでしょうか。迷走しつつもメロウでかっこ良かった『Movement』の頃のニュー・オーダー、その実験性を継承したバンドがXXです。そうした気質を持ちながらも、XXのデビュー・アルバム『XX』はUKで40万枚以上売れ、マーキューリー・プライズに選ばれ、ベルギーでもゴールド・ディスクを獲得しました。
『XX』はメロウなんだけど、音がとっても良い。1曲目“Intro”はリアーナの“Drunk On Love”でサンプリングされているんですが、凄いプロダクションの他の曲たちに全然負けていない。XXの面々は彼らのレーベルの親会社であるXLのガレージに自分たちのスタジオを作って、『XX』を作ったそうです。天才ですよね。ブライアン・イーノとダニエル・ラノワが、U2のアルバムを作るのに教会とかを借りて、そこにスタジオを作って、あの独特な音で名作を作ったようなことを、若いうちからやっちゃうんですから、凄いです。
そんなXXの2作目『Coexist』は、マーキュリー・プライズの賞金で作ったそうです。今度は完全に自分たちのスタジオ――名前は謙虚にアワー・スタジオで。かわいいです。でも、音は前作同様に最高で、方向性もいっしょです。メランコリックで、秋の夜長に合う感じ。男女のデュエットもいいんでしょうね。なんだか悲しいラヴソングのような曲が多そうです。このへんもXXがウケている部分でしょうね。みなさんも一度聴いてみてください。
ライヴはメランコリーに強さが加わるんですよね。ジョイ・ディヴィジョンのような感じです。XXのそういう部分も僕は好きです。大先輩であるワイヤーのコリン・ニューマンも、XXのことを〈あいつらは自分でスタジオを作って、自分たちが満足する音を作れる。これからはそういう奴らしか、この音楽業界で生き残れていけないだろう〉って。僕もそう思います。