バーン、カエターノらがこぞって参加するジェリク・ビショフのデヴュー作
本作の情報が入ってきたのはデヴィッド・バーンのメルマガを通じてだった。バーンによれば、彼が本作の主役ジェリク・ビショフを知ったのは、ツアーギタリストを通してで、ジェリクはアルバムにバーンに参加してもらえないかとオファーしてきたのだそうだ。バーンはこう回想する。「人がぼくに仕事をオファーしてくるのは稀なことではないが、ジェリクの送ってきた音源を聴いて稀なことが起きた。それを聴いてぶっとんだのだ…(中略)…彼の曲、アレンジは独創的で、そのくせキャッチーでアクセシブルなのだ」。かくして、ジェリクの楽曲/アレンジの上に、バーンを筆頭とする豪華ゲスト8組(カエターノ・ヴェローゾ、クレイグ・ウェドレン、ネルス・クラインなど)が入れ替わりで登場する全9曲のアルバムが成立したわけだ。
バーンがヴォーカルで参加したカリプソテイストの2曲目の《eyes》などを聴けば、心ある音楽ファンは、すぐさまヴァン・ダイク・パークスを想起することになろう。流麗なオーケストラサウンドは、アルバムを通じて千変万化をしながら、シネマティックで立体的な音楽世界を構築して、飽かすことがない。ミュージカル的といえばそうだが、高解像度にしてクリーンで、かつ参照性の低い浮遊感溢れるこのサウンドは、あるいはPIXARあたりがつくるCGアニメにこそふさわしいものかもしれない。
直接的な参照として、ジェリク自身はオンラインマガジン〈Topman Generation〉によるインタヴューで、ビヨーク、エリントン、ミンガスあたりを挙げているが、この新しい感性を読み解くには、彼が釣りの腕前、菜食料理の腕前がともに一級品で、かつスペシャリティコーヒーマニアであることなどを知っておくのもいいかもしれない。また、読みにくいこの名前、実は本名で、SF・ファンタジーマニアの父がマイクル・ムアコックの『Dancers at the End of Time』3部作に登場するキャラクター〈ジェリク・カーネリアン〉にちなんでつけたものなのだそうだ。