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ロジャー・コーマン

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/09/05   12:27
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
テキスト
text:村尾泰郎

ロージャー・コーマンの素晴らしきB級ワールド

これまで550本以上の作品を製作し、50本以上の作品で監督を手掛けた〈B級映画の帝王〉ロジャー・コーマン。その軌跡を追ったドキュメンタリーが 『コーマン帝国』だ。50年代、コーマンは大手映画会社に就職するものの映画監督の道は遠く、それならば、とプロダクションを立ち上げて低予算で映画を製作し、その作品を映画会社に売って利益をあげていく。西部劇、ギャング映画、ホラー、SFなど、大衆が喜ぶものを次々と提供したコーマンが一気に飛躍するのが60年代。暴走族やロックンロールなど、ハリウッドが取り上げない題材を映画化して、コーマンはカウンター・カルチャーに参入する。同時に大事な顧客=若者を見る目に長けていたコーマンは若い才能を次々と発掘し、マーティン・スコセッシやフランシス・コッポラ、ロバート・デ・ニーロなど様々な才能が〈コーマン学校〉で映画作りを体験して巣立っていった。映画ではそうした関係者も多数登場するが、なかでも思わず涙ぐむジャック・ニコルソンが印象的だ。

映画にはコーマン自身も登場して過去を振り返るが、彼が生み出した破天荒な映画とは正反対に穏やかで教養に満ちた常識人であり、だからこそハリウッドでしぶとく生き抜くことができたに違いない。セットの使い回し、驚異の早撮り、既成の映画を作り替えて新作として公開するなど武勇伝が次々と語られるが、それは商売人としての知恵であると同時に撮らずにはいられない映画人のサガでもあった。そうした『コーエン帝国』から生み出された珠玉のB級(あるいはそれ以下)の作品も同時期にリリースされる。独裁国家となったアメリカで殺人カーが死闘を繰り広げる『デス・レース2000』。ラモーンズが学校で大暴れする『ロックンロール・ハイスクール』、セックス&ヴァイオレンスのてんこ盛り『残虐全裸女収容所』、『スター・ウォーズ』の叩き付けた破れかぶれの挑戦状『スペース・レイダーズ』など、どれをとっても子供騙し。でも騙される楽しみが満載で、その爽快な騙しっぷりこそB級映画の醍醐味なのだ。