ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、3部作のキックオフとなるグリーン・デイのニュー・アルバム『Uno!』について。ヘヴィーな名作『American Idiot』『21st Century Breakdown』を経て到着した原点回帰作には、薬物中毒によるリハビリ報道がなされたばかりのフロントマン、ビリー・ジョー・アームストロングの背負う業が刻み込まれている——。
ビリーの状態、とっても心配ですね。9月21日の〈ハートラジオ・ミュージック・フェスティヴァル〉のステージでギターを叩き壊した映像を観ても、薬物中毒による被害妄想のようには見えないですけど。リハビリしないといけないほど深刻なんですかね。
全体の予定が25分オーバーしていたので、アッシャーを長く演奏させたいという主催者側の意向で(ホンマか?)、グリーン・デイの持ち時間を45分から30分に短縮したことに怒っていたうえ、電光掲示版に〈1分〉と表示されたことにブチ切れたらしいです。
その〈1分〉という表示はグリーン・デイとは全然関係なかったそうですけど、ドラッグをやっている人はこういうのが関係しているように感じちゃうんですよね。すべての回路がオンになっているから。僕も被害妄想の気があるので気を付けないといけないなといつも思ってます。
でも、ビリーのこの事件は別に普通ですよね。上に書いたような事情がホンマだったら、ブチ切れてもいいでしょう。ブチ切れて、関係ない観客にギターをぶん投げるとか、TVカメラを押し倒すとかそういう感じじゃなく、ビリーはちゃんと人に当たらないように考えてブチ壊していますよね。僕は凄く大人な対応だと思ったんですが。主催者の首を絞めるより、ギターを壊して演奏を中断するほうが、表現者として正しい行為だと思います。
ただ、名作『American Idiot』『21st Century Breakdown』や今回のアルバム『Uno!』、それに続く『Dos!』『Tre!』という多作ぶりから、グリーン・デイは絶好調なんじゃないかと思っていたのに、それはドラックのお陰なのかもしれないと思うとちょっとショックでした。もちろんグリーン・デイがドラッグをやっていてもいいんですよ。“Green Day”って曲はビリーが初めてドラッグをやった時のことを歌った歌だし。
でも、今回の事件で僕はもっとグリーン・デイのことが好きになったかな。昔、〈ウッドストック94〉に出演した時に泥を投げられまくったのを観て、僕も〈ウッドストック94〉の観客のように〈おこちゃまパンクだから仕方がない〉と思っていたんですけど、『American Idiot』はやっぱり衝撃でした。続いて『21st Century Breakdown』。これはザ・フーのロック・オペラやピンク・フロイドの『The Wall』に匹敵するんじゃないのと思ってました。
そして、そんなヘヴィーなアルバムを通過しての、原点回帰な『Uno!』。ビリー、格好いい! グリーン・デイに惚れたぜ、という感じだったんですけど。
今回の事件で、完全にビリーが『The Wall』の主人公――ドラッグに溺れて精神が破綻していくロック・スターそのままじゃないか、と思ってしまいました。ドラッグによって世界の現実というか、真実が見える感じって、僕は大好きなんですけどね。シン・ホワイト・デュークと名乗った『Station To Station』の頃のデヴィッド・ボウイとか大好きなんです。
でも『American Idiot』『21st Century Breakdown』のプロジェクトは終わったので、ストレートに戻っていてほしかったですね。でもそう上手くいかないのが、アーティストなんですよ。『Uno!』『Dos!』『Tre!』とプロモーションが大変そうですけど、応援しましょうよ。俺たちのことを一杯考えて、俺たちに何かを伝えようとして、ドラッグの深みにハマっていった。俺たちの代わりに業を背負っていってくれている人なんですよ。キリストみたいな人なんです、ビリーは。次は俺たちが助けてあげる番でしょう。