ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、テクノ・シーンの名門R&Sより待望のファースト・アルバム『Good Don't Sleep』をリリースするマンチェスターのホープ、エジプシャン・ヒップ・ホップについて。そのサウンドからは、メンバー同士でああでもない、こうでもないとバカな試みを楽しんでいるような姿が透けて見えるようで——。
メッツというトロントの3人組を〈フリクションとP.I.Lを高速マシーンにぶち込んだようなバンド〉とTwitterでつぶやいたら、51人がお気に入りに登録してくれました。
気を良くして、次の日にテイム・インパラというオーストラリアのバンドを〈マーク・ボランとELOをイマ風のサイケにしているところが格好良い〉とつぶやいたら、なんと82人がお気に入りに登録してくれました。登録してくれた人の1割でもCDを買ってくれたら、バンドに貢献したなと思えて嬉しいです。
メッツというバンド、本当に良いんです。サブポップから出ていて、日本盤もあるんです。マーク・ボランだけじゃなく、ジョン・レノンも入ったヴォーカルのテイム・インパラも、何年も前に〈サマソニ〉で来日していたんです。あんまり情報、入ってきてないんですかね。僕は自分の疎さにショックでした。〈ピッチフォーク〉の〈ベスト・ニュー・アルバム〉をチェックしていて、〈なんじゃ、このバンドは凄いな〉と調べてみたら、メッツは日本盤が出てるわ、テイム・インパラは来日してたわで、ショックを受けた次第です。
〈これからは、毎週絶対に渋谷のタワーレコードに行って試聴しまくるぞ〉と思いました。でも実は、渋谷のタワーレコードにはほとんど毎日のように行っているんですけどね。新しいバンドのコーナーはちょこっと見て、古いバンドの再発とかに目がいってしまうんです。これからは心を入れ替えます。
そんな僕が新しいバンドを紹介しても何の説得力もないかもしれないですが、僕が今週イチ押ししたいのが、エジプシャン・ヒップホップです。ちょっと聴いた印象ではいま流行りのアフリカンな感じを採り入れている、イマ風のインディー・バンドという感じがするんですが、こいつらただものじゃない変態バンドです。しかも若いです。前作のEP『Some Reptiles Grew Wings』の1曲目“Moon Crooner”のイントロなんて、完全にニュー・ロマンティックです。もうバカにしているのかというくらい。で、ヴォーカルがロバート・スミスなんです。でも、これがマジで格好良いんです。
マンチェスターのバンドだし、ハッパでも吸いながら、〈このCD何? やばくない?〉〈スパンダー・バレエだよ〉〈いいじゃん、俺たちもそんなふうにやろうぜ〉なんて言いながら、曲を作ってそうです。
ハッピー・マンデーズなんか、モロにそんな感じでした。ドノヴァンとか、もう当時誰も聴いていない音楽を〈ファッキン・グレイト〉とか言いながら、自分たちの音楽に採り入れてました。
エジプシャン・ヒップホップのファースト・アルバムはまさにそんな作品です。さっきのEPよりはもっとシリアスになってますが、2曲目“The White Falls”なんか、コクトー・ツインズみたいなゴスっぽい曲です。そこに入る、泣きのヴォーカルがむちゃくちゃ良いです。エジプシャン・ヒップホップって、サウンドだけじゃなく、ヴォーカルが良いんですよ。いろんな声質を持っていて、ある時はバーナード・サムナー、ある時はティアーズ・フォー・フィアーズみたいな感じです。
1曲目の“Tobago”と4曲目の“Yora Diallo”みたいな、アフリカンチックでメロウなサイケ曲がいちばんエジプシャン・ヒップホップらしいと思うんですが、いろんな曲の要素が入っている感じがいいんです。しかも全部トンでいるような感じのところが。
さすが、前のEPの後、2年間も空白がある感じです。何もしてなかったということじゃないと思いますよ。メンバー同士で、ああでもない、こうでもないと楽しくやってたんでしょうね。日本からもこんな大バカなバンドが出てきたらいいのになと思います。