ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第5回は、80年代に活動していたガールズ・バンド、チロリンが時代を経て、形(人?)を変えて蘇った新チロリン(Chiroline ver.2)を紹介します
徐々に新しくなりつつあるタワーレコード渋谷店、皆さんはもう行かれました? 10月25日の時点でまだすべてのフロアが完全にリニューアルされたわけではないですが、先日待ちかねて洋楽ロックのフロアを覗いてみたらなんだかワクワクしてしまいました。CDラックは前よりも背が高くなって、まるで図書館にいるみたい。前よりずっと作品を探しやすくなった気がします。何度も訪ねたくなるショップに生まれ変わったなあという印象です。
さて、そのタワレコ渋谷店は、説明するまでもなく渋谷駅から西武百貨店を左手に見たファイヤー通り沿いにあるのですが、昔はその先をもっともっと原宿方面に向かった山手線の線路脇にたくさんの小さなお店がありました(その頃タワレコはいまの場所ではなく、まだセンター街の奥のほう、東急ハンズの斜め向いあたりにありましたが)。もちろん、いまも線路沿いには洒落た洋服屋さんや靴屋さんなどが並んでいますが、かつて、そこに〈文化屋雑貨店〉という、それこそおもちゃ箱をそのままお店にしたような素敵なショップがあったのを覚えている方もいるのではないでしょうか。
70年代~80年代の渋谷PARCO系カルチャーのひとつのメッカともなったその名物ショップは、オーナーさんが中国や東南アジアで買い付けてきた100円程度で買えるおもちゃの指輪や文房具、何に使うのか……という意味不明のものなどが所狭しと並び……というか、ゴチャゴチャッと放り投げられたままの、どこに何があるかわからない宝島のような素敵なお店。いまも裏原宿に場所を移して営業中ですが、その〈文化屋雑貨店〉がファイヤー通りにあった頃、ときどき看板娘としてお店番をしていたのが、当時「anan」などの読者モデルとしてキュートな魅力を振り撒いていた島崎夏美です。
80年代半ばのある時、その島崎を中心に5人組女の子バンドが組まれました。名前はチロリン。全員歌は歌えるけど楽器はほとんどできません。チャットモンチーとかスキャンダルとか虚弱。のような、曲も書けて演奏もできちゃうイマドキのガールズ・バンドより遥かにダメダメでした。というより、最初から可愛らしいポップ・アート的な存在をめざして組まれていたんですね。そんなチロリンをプロデューサーとして全面的にバックアップしていたのがムーンライダーズの岡田徹。曲は彼のほかに鈴木慶一やかしぶち哲郎など、やはりムーンライダーズの面々が手掛けており、SwitchやT.E.N.Tという当時の優良ポップ・レーベルからシングルやアルバムがリリースされていました。桜沢エリカがジャケットのイラストを描いたのも話題になったものです。また、ムーンライダーズの10周年記念ライヴにコーラスで登場したりもしました。
そんなチロリン、現在は活動していません。が、先頃何とふたたび岡田徹のプロデュースで、その名も〈新チロリン(Chiroline ver.2)〉という女の子バンドがデビューしたのです。そう、チロリンの〈2012年度版〉です。4人組ですが、中心人物はやはり読者モデル出身の桐島ヒナタ(まだ10代)。鈴木慶一、アーバンギャルドの松永天馬らが楽曲提供して仕上げられたアルバム『Chit Chat Chiroline/おしゃべりチロリン』は、当時のチロリンとは少し異なり、ガジェット楽器を用いた電子音楽集。とはいえ今様のボーカロイド系ではなく、愛らしい文化系女子による鼓笛隊風ポップになっており、かつてのオリーブ少女の現代版をイメージしたようなサウンドになっています。プロデュースした岡田に言わせると、キーワードは〈英国の全寮制女子高〉〈映画「ピクニック・アット・ハンギングロック」〉、あるいは〈チロリアン音楽〉などなど。今日のアイドル文化とはまた違う、懐かしいガーリーさを感じさせる作品なのです。
今回の新チロリン始動に際しての写真展のイヴェントには、〈オリジナル〉のチロリンのリーダーである島崎夏美も登場したのだそう。かつてのオリーブ少女たちはこの新チロリンを聴いてどう感じるのでしょうか。感想をぜひ聞いてみたいものです。