多くの家族に見て欲しい名作アニメ
この映画を語るキーワードは、もちろん家族ではあるが、その他にもふたつある。ひとつは〈時〉だ。父と夫を同時に失った瞬間から、主人公であるこの母娘にとって、時間は止まったままになっている状態。『ももへの手紙』は、その時間を動かそうと葛藤する物語なのだが、舞台となるのが昔ながらの風景の残る、いわゆる時間から取り残されたような汐島という、美しい瀬戸内海の島だ。そして空からやって来て、母娘を見守るイワ、カワ、マメの3人(匹?)の妖怪こそ時空を超えた存在、という具合に〈時〉が物語の大きな要素だ。もうひとつのキーワードは〈仲間〉だ。母の喘息の発作を救いたいももが、台風の中を大橋を渡り、今治へ向かうアクション・シーン(見事な場面!)を助けるのは、マメの仲間の地元の妖怪たち。こうした仲間たち(猪との格闘の後、ももは妖怪たちを仲間と認める)に支えられたももの成長の証は、この島の娘になること。「今日は飛べるような気がするんじゃ」と初めて島の言葉を言って、橋から海へ飛び降り、陽太たちの仲間となることに成功するラストシーンは、なんと鮮やかなことか!
こうした、大人の鑑賞に耐えうるアニメに対して、よく言われるのが「ジブリみたい」という評であるが、この比較は論外だ。『ももへの手紙』が描いたのは日本の家族と、日本の美しい風景と、神話の世界という、普通の映画に必要な普遍的な要素なのであり、それはジブリでも同じ事でしかないのだ。むしろ、ちゃんと語るべきはリアリティとファンタジックの融合を成し遂げた、監督の沖浦啓之の才能と映画的記憶だろう。台風と喘息の関係性を、これほどリアルに映画に持ち込むとは!そして瀬戸内海ということもあり各場面に『尾道三部作』の頃の、大林宣彦的なる風景も見るが、ユニークな3人の妖怪こそ、フランク・キャプラ監督の代表作『素晴らしき哉、人生!』に出てくる、2級天使クラレンスをイメージではなかろうか。
ももは11歳の小学校6年生だ。同じ年頃の娘を持つ親だけでなく、本当に多くの家族に見て欲しい、本年度No.1のアニメーションである。