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Lisa Hannigan『パッセンジャー』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/11/02   21:59
ソース
intoxicate vol.100(2012年10月10日発行号)
テキスト
text:五十嵐正

ジョー・ヘンリーもメロメロ。リサ・ハニガンにとにかく注目だ!

02年のダミアン・ライスの大ヒット・アルバム『0』で、主役の歌声を彩る美声で僕らを魅了してから10年。ダブリン出身のリサ・ハニガンは現在最も注目すべき女性シンガー・ソングライターとなり、熱烈なファンを獲得している。アイルランドでの発売から約1年遅れで日本に紹介された2作目『パッセンジャー』は、2年前に予備知識無しで彼女の歌声を生で聴いて「ぶっ飛ばされた」という、あのジョー・ヘンリーがプロデューサーを買ってでたアルバム。2人はすっかり意気投合してジョイント・ツアーも始め、この10月に日本にも一緒にやってきた(10/8〜16)。

『パッセンジャー』はウェールズの国立公園にある農家を改造したスタジオに彼女のバンドと1週間合宿し、スタジオ内ライヴで録音された。ギター、ウクレレ、マンドリン、バンジョウなど彼女の弾くフォーク系の弦楽器を活かしながらも、型にとらわれぬ手作り感の残るサウンドに、後でダビングされたストリングスが控えめな華やかさを加える。

08年のソロ・デビュー・アルバム『Sea Sew』の思わぬ大成功以来、ツアーで忙しかった数年を反映し、「鳥」が何度も隠喩として登場するが、全体に移動や変化の感覚があり、「旅」がテーマに浮かび上がる。とはいっても、ミュージシャンが陥りがちな類型的な旅の歌ではなく、幕開けの《ホーム》が帰郷の歌というよりも、無垢の喪失の歌であるように、現実の場所の移動と、失恋や過ちの悲しみや痛みを経ての自身の成長という2つの旅が重ね合わせられる。歌詞にはユーモアや辛辣さもあって、時に切々と、時に毅然と、時にいたずらげに、様々な表情を見せるリサの歌唱が本当に魅力的だ。

「これまでは自分のことをソングライターと呼ぶのは居心地がよくなかった。以前は自分を歌手だと思っていたから。でも、今は自分をそう呼んでもいいと思っている」と本人も語るように、リサ・ハニガンというアーティストの個性を確立したアルバムだ。