北欧の澄んだ空気が織り込まれているよう!
日本では、これまで2度、TVアニメ化された『ムーミン』。そのうち、90年から91年まで放映された『楽しいムーミン一家』は、原作者のトーベ・ヤンソンが制作に関わっていることもあって原作のエッセンスを大切にしたシリーズだ。そのなかから3話ずつ選んだDVDが2タイトル、リリースされた。真夜中にムーミン谷に響き渡る謎の爆発音の正体を探る「真夜中の不思議な音」や、伝説の魚を探す「まぼろしの金色の魚」、夢に出てきた滝に〈探しもの〉を見つけに出掛ける「ムーミンの素敵な夢」など、少年(=ムーミン)の視線で小さな冒険がファンタジックに綴られていく。その一方で、そんなムーミンの冒険を羨ましそうに見守りながら、ついには我慢できずに自分も冒険に乗り出すムーミンパパ(「ムーミンパパの家出」)や、始終、草花の研究に夢中になっているヘムレンさんなど、まるで大きな子供のように無邪気に毎日を送っている大人達もいて、ニンゲンの大人から見れば羨ましいかぎりだ。
原作ではウィットに富んだユーモアがピリッとしたスパイスになっていたが、このアニメ・シリーズでは心温まるジュブナイルとして演出されてノスタルジックな輝きに満ちている。かつて 『とんがり帽子のメモル』で『ムーミン』にオマージュを捧げたアニメーター、名倉靖博が手掛けたキャラクター・デザインや、水彩画のように柔らかなタッチの美術には北欧の澄んだ空気が織り込まれているようだ。そんななか、日本版ならではの叙情性を感じることができるのが、なかなか芽を出さない〈歌う花〉をみんなで見守る「歌う花のプレゼント」だろう。夢みたいなことをみんなで信じることの大切さがロマンティックに物語られている。それにしても、〈ムーミン谷〉と『ゲゲゲの鬼太郎』の妖怪世界は地続きだ。そこにはフォークロア的な想像力が息づいていて、自然とゆったりと調和しながら、貧困や戦争とは無縁のイノセントな世界に遊ぶ異形のものたちがいる。そんな彼らを通じて、人間の営みを見つめる視力を養うことがファンタジーの役割なのかもしれない。