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ロックの王様はやっぱり凄かった! レッド・ツェッペリンの復活ライヴによせて

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2012/11/14   17:58
更新
2012/11/14   17:58
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文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、2007年にロンドンはO2アリーナで開催されたレッド・ツェッペリンによる再結成ライヴを収録したCD+DVD『Celebration Day』について。ロックンロールという名の帝国、その礎を築いたバンドが僕たちの前に帰ってきた。この奇跡は本作で封印されるべきなのかもしれないが、あるいはもしかしたら——。



いやー、レッド・ツェッペリンの奇跡の復活がこんなにも凄いものとは思いませんでした。凄まじかったです。〈奇跡のライヴ〉と呼ぶに相応しい感動のライヴです。

ツェッペリンのライヴでは解散後の『BBC Sessions(邦題:BBCライヴ)』『How The West Was Won(邦題:伝説のライヴ)』と度肝を抜かれていっていたのですが、それを完全に超えました。

僕が子供の頃は、ツェッペリンのライヴに触れる機会となると『The Song Remains The Same』しかなかったんですが、これが、ツェッペリンに悪運が訪れる前兆のようなライヴで、なんかモサッとしているのです。王様が堕ちていく感じ、ツェッペリン号が墜落していく感じがするんです。

『The Song Remains The Same(邦題:永遠の詩〈狂熱のライヴ〉)』の映画版を観ていると、このライヴ中に、彼らのホテルのセーフティー・ボックスから彼らのギャラが消えてしまったりします。その後、ロバート・プラントンは自動車事故で足を骨折し、息子を病気で亡くすなど、王様になったツェッペリンに呪いがかけられたかのような事件が次々と起こっていくのです。

世界一のバンドになって、大量のドラッグもやっていたから、王様は没落していったんだと思いますが、ジミー・ペイジと黒魔術の関係を揶揄されたのはこういう事件からです。息子さんの死は全然関係ないと思いますけど。

でもいま『The Song Remains The Same』を聴くと凄く良いですけどね。映画の印象でモサッと感じてしまったんでしょうかね。レッド・ツェッペリンの数少ない、貴重なライヴ音源のひとつとして楽しめます。というか、ツェッペリン・ファンがブートレグにハマっていく感じがよくわかります。ツェッペリンのライヴは全部良いです。ジミー・ペイジも自分たちの過去のライヴにハマってましたもんね。西新宿のブート屋に行って、自分たちのブート買ってましたもんね。その成果が『How The West Was Won』だったんですけど。

今回リリースされる『Celebration Day(邦題:祭典の日〈奇跡のライヴ〉)』でも、ロバート・プラントがMCで骨折の事故について触れてますが、そのMCを聞いていると、彼がツェッペリンのツアーに乗り気じゃないというのは、ツェッペリンの最後のほうには嫌な事件が多かったからかなという印象も受けました。

そんなツェッペリンですけど、見事に復活してくれました。あのマジックが本当に復活してました。もちろん、体験したことはなかったんですけど、〈これか〉と『Celebration Day』の映像を観て思いました。

ジミー・ペイジが記者会見で「みんなにショックを与えたい」と言ってましたが、まさにそんなライヴでした。ジョン・ボーナムがいなくとも、身体に震えが起こりました。これこそロックンロール。ブルースをハイパー・エナジーで燃焼させた究極の音楽。そんな音楽の王者はレッド・ツェッペリンなんだということを、解散して32年経っても証明してくれました。昔バカなヘヴィメタ・バンドたちがなぜか〈イチバン〉という日本の言葉を嬉しそうに使っていましたが、観終わった後には、〈あんたがいちばんや〉と何度もつぶやいてしました。

僕はザ・フーのファンなんで、この事実はちょっと認めたくないことなんですけど。ピートもよく〈あいつらは俺たちがやろうとしたことをもっと巧くやった。そして俺たち以上に金を稼いだ〉と歯ぎしりしながらキレているんで、僕もいつも〈ツェッペリンなんてザ・フーの拡大再生産〉〈“Stairway To Heaven”での音楽がすべてだ、というメッセージが生む魔力なんて、ザ・フーが“See Me Feel Me”(“We're Not Gonna Take It”)で何年も前からやってんねん〉という派なんですけど、うーん、このDVDは本当に凄いと思う。音楽の素晴らしさ、4人のミュージシャンが作り上げる芸術の崇高さに、本当に土下座したくなる。2時間以上も自分たちでプレイして、〈前座なんかいらない〉と。そのぶん余った経費を湯水のように使い、自分たちの自家用ジェットを持って、すべてのプロモーターに〈お前らの取り分は利益の1割でいいだろう。それが嫌なら、ツェッペリンとの仕事はなしだ〉と突きつけ、ロックの帝王となった。まあ、そのしっぺ返しが、後期ツェッペリンの不幸な出来事なんだと思うけど。

でも、それくらいのバンドだったのだ。いまのロックンロールという名の王国、その礎を築いたバンド――そんなバンドがたった2日間とはいえ、また王様として僕たちの前に帰ってきたのだ。このDVDでその奇跡は封印されるべきなのかもしれない。でも、これを観た人は誰もが、生で体験したいと思うだろうな。

きっとツアーをすることになるんだと思う。それまでは、みんなこのDVDを観て身体を震わせていろ。