ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第6回は、現在大阪の地下アイドルとして活躍するぴいち姫の〈お姉様〉、アリスセイラーを紹介します
日本各地から続々とグループがデビューしている、空前のローカル・アイドル・ブームの昨今。大阪のある場所でも、毎月アイドル発掘プロジェクトが開催されていることをご存知の方もいるのではないでしょうか。イヴェント名は〈10 minutes〉。企画/主催をしているのはモダンチョキチョキズの保山ひャンと、山本精一さんなどでお馴染みの老舗ライヴハウスである難波ベアーズ――そう、BOREDOMS界隈から関西ゼロ世代まで数々の奇才を育んできた、ある意味で大阪のもっともディープな場所で、次なるヒロインが毎月誕生しているのです。
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残念ながら私自身、このイヴェントを生で観たことはありませんが、ちょうど2年前の11月度で優勝した〈ぴいち姫〉のステージは何度か観たことがあります。なぜなら、彼女の〈お姉様〉がよく知っているミュージシャンだから。そのお姉様とは、アリスセイラー。いまなお現役で活動する、おそらく関西のアンダーグラウンド・ポップ・シーンでは最古参の女性アーティストの一人で、伝説のバンドであるアマリリスのヴォーカリストなのです。そんな彼女の〈妹〉という体で活動しているのがぴいち姫というわけですね。
ちなみにそのぴいち姫は、フリフリのミニドレスを着てブリブリに媚びた表情でサイドステップを踏みながら、正統派然としたアイドル歌謡を歌う地下アイドル。しばしばステージでは、〈実は博士に作られたロボットだった(という設定)〉から、中盤にぴいち姫を遠隔操作する博士が登場し、強烈な〈毒電波〉を彼女に送って狂わせてしまう、という展開になります。最後は強く逞しく再生を誓ってまた歌いはじめる……というお約束のパフォーマンスなのですが、一方で現在は〈姉〉を継いで〈2代目アリスセイラー〉を襲名した、ということになっているようで――まあハッキリ言って、ぴいち姫とアリスセイラーの正確な関係性は私もほとんど理解できていません。とにかく顔も背格好も歳の頃も歌声も雰囲気も、同一人物の如く(おっと……)ソックリだということ以外は……。
そんなアリスセイラーは80年代にアマリリスで活動していたわけですが、その音楽はEP-4の佐藤薫がプロデュースを手掛け、ファンク、歌謡曲、ラップ、ニューウェイヴなどなどの要素をミックスさせたイビツで危ういポップ・ミュージックといったところ。“黒人と私”“お父さん”のような、普通に歌うのも憚られる危険度の高い、でも人懐っこくキッチュな歌詞はその当時から高く評価されていました(『アマリリス名曲大全集』というベスト盤的な作品でそのキュートでエッジーな存在は確認できます)。
そしてアマリリス解散後の90年に、アリスセイラーはふたたび佐藤薫がプロデュースしたソロ作品をリリースしています。そのアルバムが今年、PV集と合わせた『1990 SUBHUMAN・21st Century Queen V.I.P. Edition』としてリイシューされました。これは驚くことに、BOREDOMS/OOIOOのYOSHIMIや山本精一、EP-4のパーカッション奏者であるユン・ツボタジらも参加した、現在にも脈々と受け継がれる関西アンダーグラウンド・シーンのポップ・サイドと言える作品になっているのです。エレクトロ~ディスコを一度撹拌し、けれど決して整頓しないまま、歪みやノイズを加えて再構築した奇妙なダンス・ポップからは、ZUINOSHIN~BOGULTAあたりの関西ゼロ世代系アーティストにその遺伝子が受け継がれてることを実感する人も多いはず。アリスセイラー自身の愛らしくも素っ頓狂なヴォーカルはその後のあふりらんぽあたりにも繋がっている印象です。
そういえば、アリスセイラーの2代目を襲名した、同一人物の如くソックリな(おっと……)ぴいち姫のステージには、博士役として佐藤薫がしばしば登場。EP-4周辺人脈が昨今の復活後もなお関西アンダーグラウンド・シーンにしっかり根差していることがわかる、重要な瞬間でもあります。地下アイドル・シーンはかくも深い歴史と共に発展しているのですね。