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深町純──天才フュージョン  アーティストの軌跡

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公開
2012/12/14   14:39
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:近藤正義

早すぎた天才音楽家、鬼才、クロスオーバーの先駆者、シンセサイザーのパイオニア…といった賞賛を欲しいままにするアーティスト、深町純。画期的だった2012年6月のタワーレコードによる1970年代リーダー作品3タイトルの初CD化に続き、2012年12月、さらに6タイトルが復刻される運びとなった。また、2008年にリリースされた『Golden Best 深町純』も期間限定で復刻され、ここに深町純の70年代の作品10タイトルが揃うことになる。それにしても、あまりに突然だった2010年11月22日の急逝から早くも2年。その後も彼の音楽を敬うミュージシャンやファンは後を絶たない。そんな彼へのさらなる再評価の気運が高まる中、これはまことにタイムリーな復刻と言えよう。

まずは1971年にリリースされたデビュー作『ある若者の肖像』。日本初の 〈ピアノによるシンガー・ソングライター〉 だった彼を記録した、じつに興味深い作品だ。ピアノの弾き語りからバンド編成まで、同時代のエルトン・ジョンにも通じる清々しさを放っている。今回が4度目のCD化という実績が示すように、じつは人気の高い名盤である。そして1972年の『Hello ! 深町純Ⅱ』は同じくシンガー・ソングライター路線の第2弾。作詞に加藤登紀子、伊藤アキラが参加している。こちらは今回が2度目のCD化。

次は1972年にリリースされた『ピアノ・ソロ・ベスト・オブ・ビートルズ』。タイトルが示すとおり、ピアノ独奏によるビートルズのカヴァー・アルバムである。ファンの間では隠れた名盤として知られていた。この演奏スタイルによる深い余韻と感動は、最晩年まで続いたピアノ・ソロ作品の原点とも言えるだろう。

さて1976年の『Spiral Steps』からはこの時期世界的な潮流となったクロスオーバーの路線。この作品は東京とニューヨークで録音され、多くの楽曲が日米混成メンバーで演奏されている。なんと日本人ミュージシャンとブレッカー・ブラザーズの記念すべき初セッション・アルバムでもあるのだ。まさに日本におけるクロスオーバー黎明期をとらえた名盤。つづく1977年作品『The Sea Of Dirac』は深町純以外を全てアメリカ人ミュージシャンで固めたニューヨーク録音。幅広い音楽性をもの凄いテクニックで表現する高度な演奏力は圧巻。

そして1977年にリリースされた『Evening Star』はベスト・アルバム。これは前出のアルバム『Spiral Steps』と『The Sea Of Dirac』から選ばれた4曲に初収録曲《Sea Horse》《Evening Star》加えた、変則的な選曲となっている。初収録の2曲は当時人気の高かったバンド、Stuffとのセッション。以上3タイトルは1992年以来、20年振りのCD化となる。後にジャンルとして形骸化してしまったフュージョンとはひと味もふた味も違う骨太な演奏は今なお新鮮だ。アナログ・シンセサイザーの絢爛豪華なサウンドも圧巻。

加えて、深町純の70年代後期におけるプロデュース作品2タイトルも復刻されるので見逃せない。歌謡界で活躍しながらもじつはフュージョンを愛好していた野口五郎のLA録音『L.A.EXPRESS ロサンゼルス通信』(1978年作品)。そしてヴォーカリスト、KAY(ケイ)のニューヨーク録音『Somewhere In New York』(1979年作品)。どちらも現地の有名ミュージシャンが多数集結し、深町純のプロデュース/アレンジのもと、当時最先端であったフュージョン・テイストのシティー・ミュージックを聴かせてくれる。この2作品は、ともに初CD化の快挙。自身の中に確立したクロスオーバー・ミュージックを歌モノに応用しようという、プロデューサー・アレンジャーとしての深町純の意志が強く感じられる好盤である。

 

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