ビル・フリゼール、ブライアン・ブレイドとのほのぼのセッション
トランペット、ギター、そしてドラムス。ジャズの編成として、かなり珍しい組み合わせだが、それがこのロン・マイルズの新作の売りではない。なるほどベースがいないことで、アンサンブルのカタチがかなり自由に展開するイメージがあるけど、しかし、どうなんだろう。仮にベースが入ったとしても、彼らの自由な演奏空間は、そうは簡単に無くなるものではないと思う。むろん、そのベース奏者が、ここに参加する演奏家のユニークさを理解できればという条件だけれど…。
ロン・マイルズ、ビル・フリゼール、そしてブライアン・ブレイドとは何ともうれしくなる組み合わせである。単刀直入に言ってしまえば、前衛的なジャズのセンスと卓抜な想像力を駆使する優れてユニークな楽器の使い手たちだ。ただ、急いで言っておくべきは、前衛と言っても、何も気難しい理論を振りかざしたり、騒音を撒き散らすことが革新的と思い込んでいる人たちではない。むしろそうした硬直した前衛志向からもっとも遠い位置にいることが、彼らの新しさなのである。
たとえばロン・マイルズのペットは、レスター・ボウイのようなテンションの高さで突っ込んでくるかと思うと、マイルス・デイビスのような声で、《酒とバラの日々》のメロディーをささやく。なるほどブレイドのドラムは、どこまでも取り留めのないリズムを打ち続けるけど、何故か自然に身体が動き出し現代最高のスイング・ドラマーとでもいうしかないのだ。彼らはメロディにしてもリズムにしても、音のカタチの向こう側に隠れている本当の音楽を引き吊りだそうとしている。それは前衛であると同時に、当たり前の音楽の快楽そのものでもある。
この仲のいい仲間が集まって録音したのはなんとマイルズ、フリゼールの故郷、コロラド州デンバーだという。自然豊かな活気溢れる都市で、その空気は彼ららしいフットワークを感じさせる。ライヴの観客の乗りもいいじゃないか。楽しい、傾聴。