ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第7回は、80年代からユーモラスなトライバル・ファンクを鳴らすパパイヤ・パラノイアをご紹介
この連載を始めて半年ほど経過しましたが、取り上げようと思ってもCD化されていない、されていてもあっと言う間に廃盤になっているというものが多くて悲しくなります。例えば、80年代に活動していたニューウェイヴ時代のガール・ポップものは洋邦問わず軒並み入手困難。Nav Katze、さいとうみわこさんのタンゴ・ヨーロッパ、ちわきまゆみさんのMenu、北川晴美さんのプリッシー・タン、ミン&クリナメン……といったあたりはコンピレーション・アルバムでもいいのでちゃんとまとめておくべきだと思うし、洋楽だと日本でも人気のドーリー・ミクスチャーは2年ほど前にボックス・セットが登場して驚かされたものの、早くも入手し難い様子。毛色は異なりますが、キャシー・デニスがカヴァーしたディスコ/ガラージ・クィーンのフォンダ・レイや、Yレコードから作品を出していたパルサラマなんかも2013年にぜひ発掘してほしいところです。日本のメーカー各社さん、いかがでしょうか?――という流れで、ダニエル・ダックスのレモン・キトゥンズが久々に再発されるって本当?
特に2013年のリイシューに期待したいのは80年代のガール・ファンクものです。というのも、そろそろ若い世代からファンク系の女の子バンドが出てきそうだから。昨今のガール・グループは黒っぽさがほとんどないシューゲイザーを下地にしているものが多いですが、その対極にいるような、ヘタでも腰抜けでもブラッキーな感覚を持った連中の足音がおぼろげですが聴こえてきています。例えば、プログレっぽいとされる虚弱。などは部分的ですがファンクを意識したようなアンサンブルが感じ取れるし、舌足らずなラップというスタイルが話題先行しているもののMoe and ghostsのトラックにはファットなリズムが多く隠されています。
ファンクは演奏技術がないとサマにならないと思っている人も多いでしょうし、実際ある程度はその通りなのですが、テクニックが伴ってなくても何とかおもしろく聴かせてしまうアイデアこそが、2013年、80年代型ニューウェイヴの自由さを踏まえたネオ・ガール・ファンク・グループのさらなる夜明けへと導いてくれるのではないかと信じています。そういう意味でもレモン・キトゥンズやフォンダ・レイあたりの洋楽リイシューも望みたいところです。
では、80年代における日本でのオリジネイターはというと、もっとも知られたところだとBuffalo Daughterの前身とも言えるハバナ・エキゾチカでしょうか。が、そんな彼女たちにさらに先駆けてユーモラスなトライバル・ファンクを聴かせていたのがパパイヤ・パラノイアでした。石嶋由美子を中心とした彼女たちはパンク・バンドとして時代のなかで認識されていますが、ファンクやスカの要素も積極的に採り入れ、それを特有の日本情緒を織り交ぜながら聴かせた最初のガール・グループ。前身バンド〈ねこおどり〉での活動を経て80年代半ばには巻上公一のプロデュースによるコンピ『都に雨の降る如く』に参加、85年にキャプテンからアルバム『もはやこれまで』でデビューしています。
着崩した和装と派手なメイクでステージに立つ様子は一見奇怪ではありましたが、変拍子や突飛なリフの応酬も難なくこなしてしまう高度な演奏は、キワモノと見る者たちが思わずひれ伏すほどでした。有頂天や筋肉少女帯らとも人気を競っていましたが、演奏面ではこちらもガール・バンドだったZELDA同様、男性バンドより上だったかもしれません。
2010年にリイシューされた『もはやこれまで & WAR3 1985~1987』は、初期のアルバム『もはやこれまで』『WAR WAR WAR』(86年)に、ニューウェイヴ・ファンクの傑作シングル“リンス”、『都に雨の降る如く』や『子供たちのCity』といったコンピへの提供曲、さらには初期デモ音源やライヴ音源なども多数加えた全30曲をディスク2枚に収録した決定盤。ブックレットには資料や貴重なデータ類も満載です(漫画が達者だった石嶋による書き下ろし作品も掲載!)。実はパパイヤ・パラノイア自体は一度も解散したことがなく、2000年代以降も作品をリリースしていますし、現在チェコに暮らす石嶋はディジュリドゥ奏者とセッションしたりといまなお精力的に音楽活動中。2013年はパパイヤ・パラノイアといての新作も期待したいですが、彼女がプロデュースする10代女子のエレクトリック・ファンク・バンドなんてのも想像してしまう……どうですかねえ?