菊地流アーバン・フュージョン!?
我が道を行くジャズ・ベーシストである菊地雅晃(1968年生まれ。今年ECMから新作『サンライズ』をリリースした、あの菊地雅章の甥ですね。かつて菊地雅章のスラッシュ・トリオの一角を彼は務めてもいた)の新作は彼が以前に所属した菊地成孔クインテット・ライヴ・ダブの仲間2人(坪口昌恭、藤井信雄)に、1982年生まれのフルート奏者である松村拓海を加えて録音されている。
まず、パっと聴いて目立つのは坪口のキーボード音か。ここでは、彼が弾く単音/複音アナログ・シンセサイザーが大活躍。その気ままな狼藉の調べを菊地(すべてウッド・ベースを弾いていている)と藤井による目鼻立ちがくっきりしたビートが支え、さらには隙間を埋めるように浮遊感のある松村のフルート演奏が泳いでいく……。と書いてしまって、どれだけこのアルバムが抱える妙味を伝えられるのか。
4ビートで行く曲もあるが、それも坪口や松村の演奏が入ると一気に別のところにやんわりワープするし、それを認めるとなんかリズム・セクション音も響きとかいろんな部分で一筋縄では行かないような気にもなってくる。だからといって、変態度数が高いかと言えばそうではなく、刺激の種は多々あるが、ルンルン聴けてしまう。うち、《Aqualine1987》はもろに爽やかフュージョン調と言っていいだろう曲調を持つ。
菊地によるオリジナル曲でしめられるなか、最終曲《Chan's Song》はハービー・ハンコックの曲で、もともとは1986年サントラ『ラウンド・ミッドナイト』に提出したもの。ジャッキー・テラソン他が取り上げるかくれた名曲だが、坪口がヴォコーダーを大胆に用いるここでのヴァージョンは何気にハンコックの1970年代後期ヴォコーダー使用期のノリを思い出させたりする? そりゃ、難解ではありませんね。
軟派なようで、“電波”で不可解。イっているようで、なんか親しみやすい。どこか懐かしいようでいて、今でもあり妙に都会的。ときに、お茶目な部分も持つ。かように一言では説明しにくい内容だが、そんなことを飄々と具現できちゃうのは間違いなく美徳。菊地雅晃の『オン・フォゴットン・ポテンシー』は皮膚感覚で、そんなことも痛感させる仕上がりになっている。