静かなる、轟音の帰還
もしかしたら、伝説になっていたかもしれない。いや、すでになっているのかも。カナダのモントリオール出身のゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー(GYBE)がデビュー・アルバムを発表して注目を集めたのは97年。9人編成という大所帯から繰り出される壮絶なサウンドと、映像を織りまぜたパフォーマンス色の強いライヴ、そして、メディアに露出をしないミステリアスなイメージで、GYBEは孤高のポスト・ロック集団として熱狂的なファンを生み出すが、2003年に無期限の活動休止を宣言。バンドは長い沈黙に入る。そのまま消息不明になれば伝説になっていたかもしれないが、2010年にオール・トゥモローズ・パーティーのキュレーションを担当したことで復活。それ以降、ツアーを重ねるなかで、ついに10年ぶりの新作を完成させた。
収録曲は20分近いドラマティックなナンバー2曲と6分程度のドローン・ナンバー2曲という構成で、アルバムの軸になる長尺の曲《Mladic》《We Drift Like Worried Fire》は、以前からライヴで演奏していた曲を曲名を変えてスタジオ録音したもの。ヘヴィーなギター・ノイズとエモーショナルに掻き鳴らされるストリングスが絡み合い、そこにバグパイプや民族楽器の音色が呪術的な色合いを与えるカオティックなサウンドは、まさにGYBE節全開といったところだ。大きな変化はないものの、彼らのサウンドがポスト・ロックというロックの新しい在り方を目指すものではなく、原始的、あるいは根源的な響きを探求していたことが、こうして時間をおいて聴き直すことで鮮明に見えてくる。そして、そこにはハードコア・パンク的ともいえるストイックな美意識が貫かれていて、アモン・デュールのような混沌を抱えながらも、緻密にデザインされたオーケストラゼーションを生み出しているのもさすがだ。メディアがこぞって煽り立てたデビュー時から15年。この静かなる帰還こそ、ノイジーでアンビエントな〈轟音の静寂〉を奏でる彼らにふさわしい。