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Cesar Portillo de la Luz『伝説のフィーリン』

公開
2013/01/10   12:43
ソース
intoxicate vol.101(2012年12月10日発行号)
テキスト
text:佐藤慶人

フィーリンの巨匠の知られざる音源が初CD化

2012年のワールドミュージック・コーナーを賑わせたトピックのうちのひとつは「フィーリン」という、ジャンルではなくむしろ潮流とも呼ぶべきキューバ音楽だった。2007年にリリースされていたホセ・アントニオ・メンデス『フィーリンの誕生』に続いて『フィーリンの真実』と『エステ・エス・ホセ・アントニオ』の2枚の作品が陽の目をみることになったおかげで、これまでいまひとつ掴み難かったフィーリンの実像が、一般の音楽ファンにも徐々に知られるようになってきた。ルンバやソンといったお馴染みのキューバ音楽のスタイルとは一線を画す、ナット・キング・コールら同時代のアメリカ音楽からの影響が色濃いムーディーな楽曲たちは、普段キューバの音楽に親しみのないリスナーからも支持を得たことで、静かにだが確実に認知を広げつつある。

そのフィーリンへの理解が更に深まるであろう注目の2タイトルが発売された。セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスはホセ・アントニオと並ぶフィーリンの2大巨匠とされ、ナット・キング・コールからカエターノ・ヴェローゾ、果てはクリスティーナ・アギレラも歌った《Contigo en la Distancia》などの作者としても知られる。しかしながら残っている録音はきわめて少なく、入手も困難な状況が続いていた。そんなセサルの『伝説のフィーリン』は発売元のアオラ・コーポレーションがキューバのエグレム社に音源の調査を依頼し、新たに発見された楽曲を含む全22曲を収録したという一大プロジェクトだ。オーケストラをバックに歌われる曲などは、これぞ「フィーリン」というべき都会的な詩情を湛える素晴らしさだが、注目したいのは収録曲の多くをしめるギターでの弾き語り曲で、フィーリンが如何にトローバと呼ばれるキューバのギター弾き語り音楽の伝統に根ざしたものであったかということが活き活きと伝わってくる。

フィーリン界最高のギタリストとされるニコ・ロハスのアルバムも同時に発売。こちらはギターのソロ演奏によるアルバムで、「フィーリン」のメロディやハーモニーの感覚を知る上でも重要作と言えそうだ。