ほんとうにレッスンを受けているかのよう!
著作権が切れるまでのサティの楽譜はおもいっきり高価だった。2〜3ページの小品が当時2000円くらいはしたんじゃなかろうか。70年代後半、高橋アキさんの〈ジャンジャン〉のシリーズや西武美術館でのバルビエのコンサートがあった頃はそんなふうだったのだが、ある時期からすっかり状況が変わった。国内の出版社から何種類もでて、今度は、はじめて 《ジムノペディ》や《ジュ・トゥ・ヴ》をどこのにしたらいいかを迷うくらい。
サティ弾きとして知られたピアニストによる新しい楽譜。
いまあらためてサティの楽譜をといわれ、もういいよ、というのが少なからぬ人の見解だろう。だが、この楽譜はちょっと違う。まず「大人のための」であること。「大人の」だけど、開いて最初にでてくるのは「子どものため」の作品。《ジムノペディ》でも 《グノシエンヌ》でもない(急いで付け加えますけど、ちゃんとはいってます。ご心配なく)。「模範演奏収録」のCDがついている。そして楽曲そのものについての解説のみならず、ピアノ演奏について、楽譜をどう読むかについて、からだについてといったことも教えてくれる。作曲者についてはむしろさらりと。いわゆる楽譜の判型ではあるが、文字がずっと多い。大人はただやみくもに弾けばいいというのではなく、理解してから弾いたほうがより効果があがるというのがおそらく根底にあるのだろう。
それぞれの楽曲についての解説は、かなり丁寧だ。ほんとうにレッスンを受けているかのよう。楽譜を部分的に引用し、それをどう考えるか、どう弾くのかが記される。速度や表情の記号からかんたんな分析、もはいる。そして手探りではじめたサティだけれどもそれだけでは収まらない。ふつうの音階やほかの楽曲を弾くためのテクニックへの通路がさりげなく示されているのだ。
シンプルにみえながらテーマ=課題として挙げられた13曲はとても幅広い。そして弾きごたえはもちろん、これまで聴きながしていたものの深みもわかるはず。