ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、美しいハーモニーとトライバルなビートで多くの聴き手を魅了するLA発の4人組、ローカル・ネイティヴスのニュー・アルバム『Hummingbird』について。その知性と温かみに満ちたサウンドからは、トーキング・ヘッズの系譜が見え隠れしているような気がして——。
このコラムで何回も言っているが、トーキング・ヘッズの影響力の凄さといったら半端じゃない。ジョニー・マーがモデスト・マウスに迎えられたのは、彼が元スミスのメンバーだからというよりもトーキング・ヘッズの『Naked』でギターを弾いていたからだと僕は思っている。
ダーティ・プロジェクターズのあのヴォーカルの重ね方もいったいどこからきたんだと思うけど、デヴィッド・バーンを聴けばその流れはよくわかる。
昂揚感溢れるあの壮大なグルーヴをたくさんのメンバーで作るアーケイド・ファイアの手法の出どころも、4人のアート・パンク集団だったトーキング・ヘッズがPファンク周辺のミュージシャンと共に作った『Remain In Light』を聴けば、その答えはわかると思う。
まだ読んでいないけど、デヴィッド・バーンには人間と音楽の関係を解説した著書「How Music Works」がある。目次を見てるだけで、これさえ読めば次なるヒットの秘密があるんじゃないかと思えてくる。
ローカル・ネイティヴスがトーキング・ヘッズの直系かどうかはわからないが、彼らのデビュー作『Gorilla Manor』ではトーキング・ヘッズの“Warning Sign”をやっていたし、彼らのアルペジオ・ギターからは、やはりトーキング・ヘッズやテレヴィジョンなんかのNYパンクのアートな匂いが感じられて好きだ。
そんな彼らの2作目『Hummingbird』が素晴らしい。ナショナルのアーロン・デスナーのプロデュースが良かったのか、よくまとまっている。『Gorilla Manor』では方向性がバラける感じもあったが、『Hummingbird』を聴けば、〈これこそローカル・ネイティヴスだ〉という音がはっきりわかる。特にハーモニーでサウンドに深みが出たのがイイ。僕は音痴なので彼らのハーモニーがどれだけの難易度かわからなくて残念なのだが、こういうのが本当のビーチ・ボーイズ直系なのでは? コード進行が賢そうなくらいで〈ビーチ・ボーイズみたいだ〉というのはどうかなと思う。
ブライアン・イーノをプロデューサーに迎えた2作目『More Songs About Buildings And Food』でトーキング・ヘッズが自身のサウンドを完全に完成させたように、ローカル・ネイティヴスもナショナルのアーロン・デスナーを迎えて、〈どこかインテリっぽいけど、優しく包み込むような暖かい音〉という独自性を作り上げた。
〈地元っ子〉というバンド名もいい。〈自分たちのできる範囲〉という風情で凄いことをしている彼らのサウンドが伝わってくる名前だと思う。