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Miles Davis『Live In Europe 1969 The Bootleg Series Vol.2』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/03/04   17:12
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
text:宮野川真(SONG X JAZZ inc,.)

それぞれの70年代へと突き進む、ロスト・クインテットのメンバーたちの創造の源流がここに

CDトレイ下の写真に映っているデイヴ・ホランド(b)が加入したのが22歳だから、アップライトに持ち替えて田舎町からロンドンへ出て演奏し始めてから数年しか経過していなかったことになる。マイルスは後にも先にもベーシストとしては唯一の白人であるこの若いイギリス人の起用と、チャールズ・ロイド・バンドから加入させたばかりのジャック・ディジョネット(ds)を組み合わせることにより、それまでには無かった強烈な躍動感を得た。

1969年7月、モンスター・アルバム『ビッチェズ・ブリュー』録音の僅か3週間前となるこのアンティーブ、ストックホルム、ベルリンでのライブは、その新しい動力伝達によって、マイルスが演奏し続けてきたセロニアス・モンク《ラウンド・アバウト・ミッドナイト》、自作の《マイルストーンズ》《ノー・ブルース》などのスタンダードが、それまでとは違った疾走感溢れる演奏へと変化している。そこが本企画の聴きどころだ。

フリー・フォームとロックの要素が交差し、スタジオ録音では過去のスタイルをすっかり捨てる決意をしていたマイルスだが、ステージではまだスタンダードを演奏するという、この一見アンバランスともとれる「ロスト・クインテット」による演奏の迫力は凄まじい。

メンバー一新のなか唯一残留したウェイン・ショーター(ts、ss)は自作曲《フットプリンツ》で試行錯誤を繰り返し、次作用に書き下ろしたばかりの新曲におけるチック・コリア(P)の荒々しさもあるパーカッシヴなフェンダー・ローズのリフレインとともに、挑戦と創造へのエネルギーを爆発させた「ロスト・クインテット」のエピソードそのものだ。

このクインテットだけでのスタジオ録音は残すことなく、ウェインは「ウェザー・リポート」、チックとホランドは「サークル」、そして少し後の話にはなるが、ホランドとディジョネットはジョン・アバークロンビー(g)を迎えてのトリオ「ゲイトウェイ」などへと、各々が70年代の創造活動へと突入していく源流を記録したものとも言える。なおDVDディスクの鮮明なクオリティは1969年とは思えない映像で驚かされた。