当代随一のサキソフォン・コロッサスがECMに合流。新時代の幕開けか?
故マイケル・ブレッカーはかなり早い段階で、次世代を担うサックス奏者としてクリス・ポッターとマーク・ターナーを挙げていたと思う。ポッターは自己のバンド、クリス・ポッター・アンダーグラウンドで、ヴィレッジ・ヴァンガードでの2枚のダイナミックなライヴ盤で実力を誇示したゼロ年代。昨年コットンクラブへの待望の来日公演が叶った(英断!)。そこにレギュラーメンバーのキーボード奏者クレイグ・タボーンの姿が無かったのは、前年に「ピアノ・ソロの革命が、またしてもECMから」と評されるデビューを飾っていたことによる。
ポッターはポール・モチアンのトリオ(ピアノはジェイソン・モラン)でヴァンガードでのライヴをECMに残しており(『Lost in a Dream』)、そしてここに、グラナディア、ハーランドというトップ・プレイヤーによるリズム隊、ピアニストとして君臨する僚友タボーンとの組み合わせでのスタジオ録音、初リーダー作がなされた。ファンクやブレイクビーツに沸騰するアンダーグラウンドを持ち込むわけにはゆかないだろう。ハーランドは、トレードマークというべき中毒性高い弓なりの加速G感覚打法が封印されているのではないか? と問うと、益子博之(音楽批評)は「1、2曲目のテイボーン、ビレージェス、ハーランドの人力エレクトロニカ的な、デジタルなリズム感」を指摘してきた。なるほど、本来ピアニストのビレージェスをカラーリングに限定して配置している感覚も、空間的表現に深淵を与えている新しい手つきだ。
そこに新生ポッターと言うべき、見事なコントロールと抑制された熱気が放たれているではないか。ECMのニューヨーク進出は新次元を迎えた手応え、テン年代ジャズのひとつの回答だ。
叙事詩『オデュッセイア』にインスパイアされ制作したという本作、タイトルトラックはミュージシャンの固有名詞は失われ、詩情だけが風景だけが音楽となった名演。ECMは美に耽溺させることも忘れない。