ジェーン・バーキン
©SHOICHI KAJINO
本物はおそろしい
20代の後半から数年間、ジェーン・バーキンの笑顔が怖かった。あの、素晴らしい笑顔である。2003年オーチャードホールでの『アラベスク』公演で、生のジェーン・バーキンを目の当たりにして私は思い知ってしまった。大輪の花が咲いたような笑顔の下の凄まじい情熱、表現することへの覚悟を。本物はおそろしい。それは身に迫って、時に自分の内の全てをあっという間に変えてしまう。その頃の私は口ばっかりの中途半端な状態だったけれど「本物」を感じることはできた。あの笑顔を見るたびに「あなたはそれでいいの?」と突きつけられているようで、怖かったのだと思う。
2年前の4月5日、東日本大震災からひと月も経たないうちに、ジェーンは単身来日した。翌日には、ジェーンに賛同した日本の音楽家らと復興支援のための無料コンサート『TOGETHER FOR JAPAN』を開催。また街頭で募金に立ち、都内避難所へ慰問を行った。さらに継続的な震災復興支援の意を込め、タイトルに“VIA JAPAN”が冠せられた世界ツアーを開始。募金箱を手に、東京で共演した日本人ミュージシャンらと27か国74都市を巡った。助けを必要としている人に自分が今できることを行う―それは自分自身を救うことでもあるということをジェーンは知っている。その勇気と信心。ジェーン・バーキンについての話題を耳にするたび、あのきれいな笑顔を思い出し、自分について考えた。
1年半にわたる世界ツアーは、震災から2年が過ぎた3月28日、東京オペラシティコンサートホールで幕を閉じる。出演は、ジェーンと共に世界を回り演奏曲目の編曲を行った中島ノブユキ(P)をはじめ、金子飛鳥(vn)、坂口修一郎(tp)、栗原務(ds)。志が高く自由な精神を持ったメンバーで演奏されるのは、セルジュ・ゲンズブールがジェーンのために書き下ろした24曲。早春の東京で聴く、気高い魂が奏でる音楽。「この2年」を生きた私たちにそれはどう響くだろう。きっと特別な夜になるはずだ。
LIVE INFORMATION
Jane Birkin sings Serge Gainsbourg "VIA JAPAN"
3/28(木) 18:30開場/19:00開演
会場: 東京オペラシティコンサートホール
出演: ジェーン・バーキン/中島ノブユキ(P) /金子飛鳥(vn) /坂口修一郎(tp, tb) /栗原務(ds)
http://www.parco-art.com/janebirkin