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パーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマー・フィル 『Schumann at Pier 2 - Symphonies & Documentary』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/03/19   12:18
ソース
intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)
テキスト
text:木幡一誠

指揮者とオーケストラの素晴らしい共同作業の貴重なドキュメント

ドイツ・カンマーフィル(DKB)の地元ブレーメン。その港に面した〈ピール2(Pier2)〉が収録会場だ。昔は造船所だった建物で、普段はロックコンサートなどに使われている。そこで若い聴衆を相手にシューマンを聴かせる。大胆不敵で知的好奇心を刺激する演奏が音として鳴り渡るには申し分のない舞台か。

ヤルヴィとDKBによるシューマンの交響曲シリーズはCDでも進行中だが(既に第1番〜第3番がリリース済)、今回のライヴ録音はさらに錬磨と深化の度を増したような趣すら漂う。リズムのキレはよくフレーズの造形感はシャープ。贅肉をそぎ落としたスレンダーなシルエットなのに、どこか艶美な肉体性も失っていない。そんなオーケストラの響きが、バランスのとりにくいスコアの弱点を見事に補いながら、作曲者の躁鬱気質がもたらす表情の幅広い変化と急転を鮮やかに描き出す。

……という具合に交響曲の実演だけでも溜飲の下がること必至だが、さらに価値が高いのは〈シューマン・アット・ピール2〉なるメイキング映像。指揮者へのインタビューはもちろん、主要パートの首席奏者による実演を交えたコメントもリハーサル風景の間に配し、各曲の解釈で勘所をなす部分を浮き彫りにしていく(ハングルと中国語はあるのに日本語字幕がないのは珠にキズだが、内容は比較的わかりやすい)。

パーヴォの発言だけ追っても面白いこと無類だ。「不安定な精神状態がもたらすエロティックな衝動」を作品の中に指摘し、《第2》では第1楽章の序奏部の書式を「偉大なハイドンの影が霧の彼方に見え隠れする」と看破し、《ライン》の緩徐楽章に「クララの名を呼ぶ声が様々な抑揚で現れては消える」と、意外なほど詩人肌の(失礼!)顔つきまでのぞかせる。そんなマエストロが頭の中に渦巻くアイデアを楽員に浸透させ、音として引き出すのに成功を収める姿。自発性に富む態度でその棒に応えたオーケストラ。素晴らしい共同作業のドキュメントでもある。

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