ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返るコラム。今回は、10年ぶりのニュー・アルバム『The Next Day』が話題となっているデヴィッド・ボウイの73年作『Aladdin Sane』について。リリースより40周年を記念してこのたびリマスター盤が登場した同作は、実はボウイの最高傑作だと思っていて——。
皆さん、デヴィッド・ボウイの新作『The Next Day』はどうでしょうか。僕的にはまだあんまり理解できておりません。なんか凄く良いような気もするし、直近の『Heathen』(2002年)、『Reality』(2003年)と変わらないんじゃないかと思ったりもしています。
ヒーローがいないいまを嘆く“Stars, The (Are Out Tonight)”はパンクな“Heroes”みたいでかっこ良いですし。途方に暮れた時代を嘆く“Where Are We Now?”は“ Ashes To Ashes”(80年作『Scary Monsters』収録)みたいで良いですね。
『The Next Day』は『Lodger』(79年)や『Scary Monsters』の頃くらいに戻ってきたような気がします。この2作品は、ボウイがなんとかニューウェイヴを取り入れようとしつつも、ちょっと時代から遅れている感じが当時はしていたんですが、いま聴くと良いアルバムなんです。
その頃のポスト・パンクのデラックス版みたいな感じがしてかっこ良いんです。『Heroes』もそんなアルバムだったんですけどね。時代と寝るのはやめて、ちょっと先端からは遅れつつも、アーティストとしてなんとかリアルタイムの言葉を吐き出している感じがします。こういうのって詩人としてかっこ良いんじゃないかと思ってます。そんなにいつも最先端でいる必要はないでしょう。
そんなボウイなんですけど、『Aladdin Sane』がリリースから40周年を記念してリマスター盤が出ます。
『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』(72年)と『Diamond Dogs』(74年)という名ロック・オペラ作品に挟まれて忘れられがちなんじゃないかと思うアルバムなんですけど、実は僕、この作品がボウイの最高傑作だと思っています。
ジギーを名乗るのを止めたくせにアラジン・セインという名前で復活するなんて、なんかキャラ設定がグダグダやんと当時は思っていたんですけど、〈ジギー・スターダスト〉よりも曲が完成されていて、ボウイという才能が完成されたのはこのアルバムだといまは思っています。名曲連発なんですよ。“Drive-In Saturday”“Panic In Detroit”“Time”などなど。
USツアー中の狂気とスターとしての自身の限界、挫折みたいなものを歌ったアルバムですけど、かっこ良いんです。一度通してしっかり聴いてみてください。