待望! マリア・シュナイダーが初めて手掛けるヴォーカル作品
昨年末の初来日の興奮冷めやらぬマリア・シュナイダーが、ここ数年ジャズ・オーケストラと並行して進めていた 、ソプラノ歌手ドーン・アップショウとチェンバー・オーケストラとのコラボレーションによる初のクラシック作品が完成した。2008年にシュナイダーの大ファンだったアップショウの長年のラヴコールに応えて制作されたM10〜14は、20世紀のブラジルの国民的詩人カルロス・ドゥルモンド・デ・アンドラーデ(Carlos Drummond de Andrade)による男女の機微を描いた詩を元に、シュナイダーの出身地ミネソタ州のセント・ポール・チェンバー・オーケストラと共演した。クラシックでありながら、ブラジル音楽や、フラメンコのモチーフが顕れる意欲作である。2011年春には、この作品でカーネギー・ホールで公演が実現した。このプロジェクトの終了後、オーストラリア・チェンバー・オーケストラ、また、レギュラー・ビッグバンドから長年の腹心、フランク・キンボロウ(P)、ジェイ・アンダーソン(b)、スコット・ロビンソン(reeds)を起用し、インプロヴィゼーションを隠し味に2011年に制作したのが、癌の闘病からの生還のすがすがしい気持ちを綴ったピューリツアー賞受賞詩人テッド・クーザー(Ted Kooser)の詩をとりあげた《Winter Morning Walks》(M1~9)だ。シュナイダーは自らの故郷、アメリカ中西部の原風景を思い浮かべて作曲し、ジャズ作品のホーンによるアンサンブルとは異なるが、ストリングスでも唯一無二の美しさのマリア・オーケストレーションがアップショウのヴォイスを包み込み、カウンター・メロディを奏でる。また、3人のジャズ系プレイヤーたちとチェンバー・オーケストラのブレンドも、サウンドに独特の緊張感をもたらしている。自らをアメリカン・コンテンポラリー・ミュージック・コンポーザーと位置づける、マリア・シュナイダー・ミュージックの新たなチャプターが拓かれた作品である。