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Josh Groban

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/04/25   17:26
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text : 服部のり子

プロデューサー、ロブ・キャバロとの出会いで決まった新作の方向性

2011年12月にワールドツアーが南アフリカで終わった時、ジョシュ・グローバンの中で曲作りをすぐに始めたいという欲求が湧きあがってきた。3rdアルバム『アウェイク』でレディスミス・ブラック・マンバーゾと組むなど、彼にとって南アフリカはインスピレーションを大いに刺激する場所だ。

帰国直後に休むことなく、アルバム制作を始めたが、プロデューサーに選んだのはロブ・キャバロ。グリーン・デイやグー・グー・ドールズなどロック・バンドを成功させてきた人で、現在はワーナー・ミュージックのCEOも務めている。彼との出会いがアルバムの方向性を定めた。キャバロは、完成したジョシュの新作『オール・ザット・エコーズ』に関して、「魂の奥深くにまで届くことが出来る〈音楽による冒険〉が詰まった作品」と語っている。

それはどんな冒険なのか。ジョシュ自身は、直観を信じて、感じるままに音楽を作ったと語っている。

20代最後の作品となった前作『イルミネーション』からジョシュは、クラシカル・クロスオーヴァーのフォーマットから大胆に脱皮。2曲のカヴァーを除いた収録曲全てを自身でコラボレートして、成功が確約されているようなクラシカル・クロスオーヴァーの定番曲に頼らないアルバム制作を貫いた。それにより1/fのゆらぎを完璧に持つヒーリング・ヴォイスのシンガーからクリエイティヴなアーティストへと成長を遂げた。

新作も基本はその延長上にある作品で、自作曲とカヴァー曲で構成されているが、エモーショナルなバラードからアイルランドの伝統歌、南アフリカ風ギターをスパイスにした曲、ラウラ・パウジーニとのイタリア語によるデュエット、ジャズ・トランペッターのアルトゥーロ・サンドバルをフィーチャーしたスペイン語の歌など、バラエティに富んだ作品になっている。加えて日本盤のボーナス・トラック《この先の道》では日本語に初挑戦している。

その全てが直感に従った結果であり、ロブが語る「この2人の組み合わせだからこそ挑めたリスク」という言葉に納得がいく内容だが、それでも全体に統一感があり、理屈抜きに気持ち良く聴いていられるのはジョシュの気品に満ちたヴォーカルの存在が大きいだろう。30代となり、誠実さに包容力が加わり、聴くうちに安堵感に包まれる。この声がどう成長していくのか。その期待感を煽る作品でもある。

アルバムは、全米で初登場1位になった。ロブが語るところの〈音楽の冒険〉が確実にリスナーに届いていることを証明する結果だろう。

©Olaf Heine

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