甘いだけじゃない! 枯れて大輪の花を咲かせんとする北欧の新星
甘いマスクの青年だ。ブックレット中面にあるモノクロ写真のロンリーな表情も影があっていい。女性だったらすぐに心を掴まれるに違いない。
声もまたいい。前にチラと聴いたとき(それは昨年の日本デビュー作からの曲だった)は、いかにも若々しくて、やんちゃっぽさの残る歌声だったが、新作『ルーフトップ』から聴こえてくるのはグッと深みの増したもの。ほどよくハスキーなそのヴォーカルは、もっと枯らせば彼自身がお気に入りの歌手として名前を挙げてもいるジェイムス・モリソンやパオロ・ヌティーニに近くなっていくんじゃないかと思えなくもない。要するにずいぶんとソウルフルになってきたということだ。
スウェーデンはイェテボリ郊外で生まれ、音楽好きの父親の影響でストーンズやビートルズ、クイーンといった王道ロックバンドを聴き親しんで育ったウルリック・マンター。8歳でピアノ、10歳でギターを手にして曲作りを始め、北欧の権威ある音楽コンテストでグランプリを勝ちとったことから本格的に活動を開始。クリスティーナ・アギレラのヒット曲も手掛けたスウェーデン人プロデューサーがマネージャーを買って出て、2011年にデビューするや、あっという間にブレイクした。日本でも早くから目をつけていたという女性は多いだろう。
甘いマスクから、ティーンに人気のアイドル的な歌手だろうと、聴く前に敬遠してしまう人もいるかもしれない。が、日本でのセカンドアルバムとなる『ルーフトップ』を聴けば、そんな先入観など一瞬で吹き飛ぶことになるだろう。まずは先にも記した通り、声のハスキーさが増して深みと色気が出てきたことがひとつ。そして同時に楽曲の幅が広がり、曲によっては驚くほどにスケール感のアップを思わせるのだ。
そのスケール感が顕著に表れているのは、例えば開幕曲の《テル・ザ・ワールド・アイム・ヒア》。そこから鮮やかに広がるサウンドスケープはコールドプレイ的とも言えるし、ギターのカッティングと曲の昂揚感はU2を想起させもする。つまりロック的なダイナミズムをこの2作目で彼は早くもモノにしているということだ。そうした曲がある一方、3曲目の《サンフランシスコ・セッズ・ハロー》や8曲目《シンフォニー》のようにシンガー・ソングライターとしての実力を大いに感じさせる曲もある。内省的な部分がありつつ、とても親密な聴かせ方をしていて、それこそ先にも挙げたジェイムス・モリソンあたりに通じる説得力を身につけているのである。吸収し盛りの19歳。ここからどう本格的に開花していくか、楽しみだ。