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Vicente Amigo『ティエラ』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/05/08   12:39
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text:佐藤由美

深く根をおろせばこその親和性。アンダルシアの詩情にケルトが香る新作

「彼はいつも詩集を手放さず読みふけっている」と、スペインの音楽関係者が教えてくれた。なるほど、溢れるロマンティシズムの根底に、音数と同じくらいたくさんの詩情豊かな言葉が詰まっているのだろう。そんな個性を大いに発揮する、ビセンテ約3年半ぶりの新作。プロデュース、オルガン&ピアノを担当するのは、元ダイアー・ストレイツのガイ・フレッチャー。バック陣に、ガイ周辺の仲間やカパーケリーの面々。アンダルシア訛りのギターが、スコットランドの香気にふんわり包まれた、芸歴初のロンドン録音だ。

異色の邂逅劇、革新的アプローチ……などと騒ぐにはあたらない。彼はもともとフラメンコ界でもっとも親和性の高いギタリストなのだから。スペイン北部のケルト音楽との交流も実証済み。グループにヴァイオリンを導入するのも早かった。母国ポップ・シーンとも極めて折り合いよろしく、つねにドラマティックなメロディメイカーぶりを際立たせてきた。そも、挑戦とか格闘という気負いとは、無縁のお人なのだ。

ビセンテの作品に込めたイメージを、ジャケットの図柄が象徴。大地=ティエラにまっすぐ根(弦)をおろす樹は、片側でオリーブ状の細葉をつけ、もう片方の地でオーク状の葉を茂らせる。風土差による植生と音楽性の違いは、確かに似ている。曲ごとに記された一文も、いかにも浪漫派詩人らしいではないか。

《絹の川》は、ケルト色濃厚な導入部から、自然にブレリア・リズムを屹立させ、静寂にまどろむ一筋の川が奔流へと激変。《季節は春》もブレリア、《ティエラ》《ラウラの歌》はタンゴが基調。《ローマ》の音色、どこか古代ローマ軍のイベリア戦士を想起させる。ビセンテは、2曲でヴォーカルまで披露。ラスト2曲が日本盤のみのボーナストラックで、3月からのワールドツアー前哨戦となった、1月グラスゴーでの力強いライヴ。己の美学に没入してみれば、存外ケルトとの相性が良かったのかも……アートワークも秀逸!

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