ロンドン在住のバンド・BO NINGENが、現地の音楽やアートにまつわるあれこれを紹介する連載! 第4回は、Kohhei Matsuda(ギター)が絶賛ツアー中であるBO NINGENのバックステージやオフ日の様子などをレポート!
本当に何から書けばいいのか、どこまでをどのくらい書いていいのかわからないほどに、ダイナミックでドラマティック、もうまったくリアルに感じないという点においてはシアトリカルですらある今回のツアー(まだ途中ですが。あとライヴ6つ。さっきバルセロナから帰ってきました)について、ライヴ自体は実際に体験してもらうとして、ベタですがバックステージ日記的に語ろうかと思います。
ツアーというのはあたりまえだけれども非日常なんで、独特な時間の流れ方をするんですが、それによって(あるいはもともとの素質か)、昨日どこに居たのかも思い出せない、といったことがわりと頻繁に起こります。結構やばいなーと思うときもあるんですが、この現象を加速させているのが、日本ではあまりない習慣、ライダー(Rider)というものであります。
これがライダー
ライダーを味わい中
会場と規模と自身の知名度によってもちろん増減はあるんですが、プロモーター(イヴェンター)による演奏家たちへの飲み物の提供はなかば義務となっていて、僕らが6年ほど前にバンドを始めたとき、駆け出し中の駆け出しの頃ですら、少なくとも1人ビール2~3杯は振る舞われていました。これが結構嬉しくて、呼んでくれた人の熱意と敬意と期待っていうのを、バンドを始めた頃からわかりやすい形で感じ続けたのは、だいぶ励みになっていたんだなと思います。
いまはそれなりに積み上げてきたものもあるので、冷蔵庫の中はこんな感じなんですが、昔ブリティッシュ・シー・パワーといっしょに回って、楽屋に遊びに行ったときには、そのライダーの充実っぷりにびっくりした覚えがあります。これ、日本では僕らくらいのレヴェルだとあんまりないです。絡んだり、たかっているつもりはありませんが、何となく、日本ではまだ演奏家がいろんな意味で低く見られている風潮があるのかなと思ったりもします。ノルマもあるし(これは文化の違いもあるし、なんで日本にはこんなにライヴハウスが多いのかって話とか……長くなるので別の機会にどこかで書こうかと思います)。
と、酒呑みの妄言みたいになっていてアレですが、とりあえずツアー初日――というかそもそもどれが初日であるか定義しづらいツアーで、この前にもリヴァプールとロンドンで演奏していますし、そもそも頭から幻想病にかかったようなツアーです――イギリス中の音楽好き/ミュージシャンから絶大な支持を受ける人気ラジオ、BBC6ラジオのマーク・ライリー(DJであり元フォールのメンバー)の番組で生演奏をするためにマンチェスターまで、5時間ほどのドライヴ。
サウンドチェックをするTaigen & Monchan
スタジオ控え室にて
もうこのセッションも3度目になりますが、マークは本当に情熱的なミュージック・ラヴァーで、毎回楽しくリラックスして演奏できています。
次の日のことを書こうと思ったのですが、記憶が曖昧なままなので、いきなりプレストンにあるマッド・フェレットというライヴハウスのトイレについて。
マッド・フェレットのトイレの壁
壁は基本的にまっさらなのが好きなので、落書きとかグラフィティーとかは嫌いなんですが、これはいいですね。なぜかほとんどが壁をスクラッチして描かれています。重層的なレイヤーと妙な整合性が、このトイレを訪れた人々の集合的無意識の発現であるかのようで魅力的でした。
そして次の日。会場の裏庭にピアノの中身が落ちてました。ものすごい音がするので欲しかったんですが、2人がかりでも持ち上げられるかわかんないくらいだったので諦めました。こうやってみるとハープみたいですね。
落とし物
確かポーツマスへ向かう途中の車内。ここで談笑したり眠ったり食事をしながら旅をします
ポーツマスでの会場だったレジストリー
レジストリーの控え室から見える謎のドラム缶
ツアーの常宿はトラヴェロッジ。最安ホテル・チェーンです。どこへ行っても内装が同じなので、これもツアーの時空間をねじ曲げる要因になっています。誰かの家の床とかホステルよりはましですが。
仲良し
仲良し2
そして古都・ヨーク。イギリスってどこ行ってもこんな感じかな……といった感じの綺麗で古い街並み(ロンドンはわりとラフな部分が目につく)。何がどうなってこうなったかまったくわからないくらいに、家々のフレームが歪んでいます。遠近感が狂うようなナイスな路地。
ヨークにて
ヨークにて2
出番前にストレッチ中のメンバー
この後、前述のトラヴェロッジのサウスケーヴ支店にて3晩を過ごす。内1日はオフ。しかし人里まで車で20分ほどかかる。
室内にて
街並み(!?)
これだけ見ると結構ナイスですが、オフの日も起きてから30分で飽きるような場所なので、ロード・ムーヴィーを作ろうと、デジカメでヘンに青春感のある粗い動画を撮ったり、ナベとか缶を叩いたり、バスルームで合唱したのを録音してスカムな〈ガムランmeets聖歌〉みたいなトラックを作ったりしていました。これもいつかどこかで発表したいと思います。
その翌日、ハルの会場に到着するも閉まっていてうろうろする。壁に描かれたぬるいグラフィックとか、よぼよぼのPAエンジニアとか、とにかく突っ込みどころが多い会場でしたが、出音は抜群であったようです。
ぬるめのグラフィック
Monchan & Taigen
20数年の歴史があるらしいのですが、こういうキャラクターの立ったライヴハウスが多いのもイギリスのおもしろいところです。汚いのがダメな人は……まあ無理だと思いますが(控え室が結構すごかったので)。
このあたりから精神のバランスを崩したのか呑みすぎたのか、極端に写真が減るので少し空きますが、これ↓は数日後のレスターでのライヴ後。ここまでのツアーをいっしょに回ったデフ・クラブ(Deaf Club)の面々+われらがツアー・ドライヴァーのマイク(左端)との最終日ということで撮りました。
ツアー前は音楽/人間的に合うのか不安もありましたが、人柄はもちろん、音楽的にも意外に喰い合わせが良かったのでこの日は少し寂しかった。
そしてまた少し空いて、バルセロナ。前日のバーミンガムでの演奏の後、空港に直行→5時間待機→フライト……からのホテル着。しかし早すぎてチェックインができなかったため、朝食を求めて彷徨う。
彷徨うわれわれ
今回は〈プリマヴェーラ・サウンド〉というかなり規模の大きいフェスティヴァルのオープニング・パーティーでした。地元のメタル・バンドと、ゴッドフレッシュというゴツめなラインナップのなかに放り込まれる。
ここでインタヴューをしてくれた人↓。BOREDOMSのTシャツ、全身にロックスター(ザッパとか)のタトゥーあり。BOREDOMSとネイキッド・シティとアラレちゃんの話題で盛り上がり、なぜかTシャツをもらう。
インタヴューしてくれた人と筆者
この後、夕飯を食べに行き散歩に行き、微妙なトラブルがあったりしながらも、1人も欠けることなくロンドンへ辿り着く。
一夜明けて、今日はロンドンでのオフなのでゆっくり眠る予定だったのが、4時就寝の7時起床。何かがおかしいと感じながらスーパーへ食材を買いに行き、わかめと人参とネギと卵焼きと即席麺を食べて、いま10時過ぎ。そして明日はマンチェスターへ――道は、音楽があって人がいればどこまでもいつまでも続いていくようです。
今回のツアー中は携帯音楽プレイヤーを持たず……ということはつまり、かすかに聴こえるドライヴ中のラジオと各地の前座バンド/転換BGMを除けば音楽なしで、酒と団欒と散歩以外には本ばかり。しかも澁澤龍彦「黒魔術の手帖」、中沢新一「イコノソフィア」、ロラン・バルト「恋愛のディスクール・断章」というとりとめのないセレクションで臨んだのですが、存外悪くなかったです。自宅でのオフ日に聴く音楽にものすごいありがたみを感じますし。
とりあえず、サラッと表層をなでただけのツアー日記、しかもあえてスケジュールの確認をせずに書き飛ばしたので、抜けてる日もたくさんある(だいたいそういった日に重要なことが起こっていたり……)のですが、〈ツアー(地方巡業。ミュージシャンの基本)〉という非日常を、非日常側から安物のデジカメで記録したようなもの、程度にはなったかなと思います。それでは、またすぐにお会いできるのを楽しみにしております。
PROFILE/BO NINGEN
Taigen Kawabe(ヴォーカル/ベース)、Kohhei Matsuda(ギター)、Yuki Tsujii(ギター)、Akihide Monna(ドラムス)から成る4人組。2006年、ロンドンのアートスクールに通っていたメンバーによって結成。2009年にアナログ/配信で発表した『Koroshitai Kimochi EP』が現地で話題となり、〈Offset Festival〉をはじめとした地元メディアからも注目を集め、UKツアーのみならず、日本盤の発表後は日本でのツアーも成功させる。2011年にミニ・アルバム『Henkan EP』をリリース。最新作となるセカンド・アルバム『Line The Wall』(Stolen/ソニー)の日本盤も大好評。そして8月にはふたたび来日公演&夏フェス出演が決定しております!
「BO NINGEN HEADLINE LIVES 2013」
8月1日(木)名古屋 APOLLO THEATER ゲスト:N'夙川BOYS
8月3日(土)大阪 SHANGRI-LA ゲスト:N'夙川BOYS
8月13日(火)東京 代官山UNIT *単独公演
そして
8月16日(金)、17日(土) RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013
詳細はこちらのサイトでチェック!