ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第13回は、いままさに新境地を拓いている島根在住のシンガー・ソングライター、浜田真理子を紹介します。
NHK連続テレビ小説「あまちゃん」を毎日観ています。「ゲゲゲの女房」以降、朝の連続テレビ小説を観ることが習慣になったというのもあるのですが、大友良英さんによる音楽が本当に魅力的で、ストーリー関係なく劇中曲を楽しむ目的で観て(聴いて)いる、という方もいるのではないでしょうか。その「あまちゃん」のサントラはオリコンのアルバム・チャート5位を記録したそうで、大友さんの紅白歌合戦への出演もにわかに現実味を増してきました。
大友さんがヤマタケこと山下毅雄などの影響を受け、90年代から映画やTVのサントラを多数手掛けていることは有名ですが、わけてもこの「あまちゃん」は、クレツマー、サンバ、ジプシー・ブラス、ブルースなど各国のルーツ音楽の要素を軽妙に採り入れたノヴェルティー・ミュージック集に仕上がっています。フリージャズやノイズのイメージが強い大友さんの引き出しの多さを再認識させられる素晴らしい一枚になっているわけですが、唯一残念なのは劇中に登場する“潮騒のメモリー”が収録されていないこと。本編の重要な役割を果たす同曲は、松田聖子“裸足のマーメイド”あたりを思い出させる80年代アイドル・ソング風。これも大友さんによるオリジナル(作詞は「あまちゃん」の脚本を手掛ける宮藤官九郎)とのことで、本来なら併せて聴きたいところでした。まだ物語が進行中のいまのタイミングでこの曲を収録するとしたら、いったい誰の歌唱で? もしくはインスト?ということになりますが。でも、これを機に今後はリアルな女性アイドルへの曲提供なんかも期待できるかもしれません。
とはいえ、大友さん自身、これまでにも女性アーティストとの絡みは案外多くて、例えばカヒミカリィさんの最近の活動には欠かせないですし、Phewさん、戸川純さん、かわいしのぶさん、そしてもちろんSachiko Mさんらとさまざまなシチュエーションで共演しています。そのなかでも最強の好相性を見せて(聴かせて)いるのが、間もなく約4年ぶりのオリジナル・アルバム『But Beautiful』をリリースするシンガー・ソングライター、浜田真理子さんでしょう。
64年島根県松江市生まれで現在も在住。「あまちゃん」ではないですが、〈GMT(地元)〉での活動を大切にする主に2000年代以降のアーティストの代表と言ってもいいかもしれません。98年に最初のアルバム『mariko』をリリースするまではほぼ無名でしたが、2002年に自身の事務所でありレーベルでもある美音堂を立ち上げてからの彼女は、島根に暮らしながらも、渋谷のオーチャードホールや横浜の赤レンガ倉庫をはじめ全国でワンマン・ライヴを行ったり、演出家・久世光彦のエッセイ〈マイ・ラスト・ソング〉を題材にした音楽舞台で小泉今日子と共演したり、大橋トリオのアルバムに参加したり……と静かにシーンの中枢と関わってきました。特に3作目『昼も夜も』をプロデュースした大友さんとは交流も深く、大友良英ニュー・ジャズ・クインテット(ONJQ)にゲストで参加したり、大友さんが手掛けたNHKドラマ「白洲次郎」のサントラで歌っているなど、いまや〈大友ファミリー〉の一人として欠かせない存在。昨年8月にはその大友さんらが主催する〈プロジェクトFukushima!〉に参加したことも記憶に新しいでしょう。
そんな浜田真理子さんの5作目『But Beautiful』には、〈プロジェクトFukushima!〉のために書き下ろした“はためいて”も含まれています(もちろん、アルバムでは大友さん、水谷浩章さん、外山明さんらがバックアップ)。浜田さん自身の歌とピアノ、そして大友さんのギターだけで成立しているシンプルな作品にあって、同曲は〈ああふるさとはここにあり〉と穏やかに、そして確かな滑舌で歌われた彼女のヴォーカルがいつになく凛々しく響く屈指の一曲。もともと浜田さんは女性らしいたおやかさを持ち、それでいて媚びていないキリリとした歌世界が魅力ですが、今作は言葉が一段と強く太く大らかになった印象もあります。さらに、(抽象的ですが)彼女の歌声は平仮名のイメージ……と個人的にはずっと思っていました。しかし実際に今作の歌詞を眺めていると、平仮名と漢字のニュアンスに応じて歌い方も変えているようにさえ聴こえます。平仮名で少し柔らかく発音をしてみる、というような……。
彼女が〈発見〉されてから約15年。今回のアルバムは浜田さん自身のプロデュースで、zAkさん(フィッシュマンズ、Buffalo Daughter他)の手により録音/ミックス/マスタリングが施されています。〈プロジェクトFukushima!〉の関係者を講師として迎えて原発を考える講習会〈スクールMariko〉を地元・松江で開催していたりもする彼女は、大友さんらとの交流を通じて経験を積み重ねたいま、もしかすると新しい境地に入っているのかもしれません。