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『ヒッチコックの映画音楽』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/06/25   15:39
ソース
intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)
テキスト
text:小沼純一(音楽・文芸批評家、早稲田大学教授)

サスペンス映画の神様を支えた、誰をも恐怖に陥れた名曲たち

映画のなかで音楽がなっている。ともすれば視覚的な印象がつよく残って、音楽を忘れてしまうことがあるのだが、しかし、音楽のみをとりだし音源で聴いてみると、あらためて、気づけることが多くある。今回リリースされる2枚組の『ヒッチコックの映画音楽』は、そんな例のひとつだ。

1枚目はバーナード・ハーマン(1911-1975)の音楽。『北北西に進路を取れ』から『めまい』『サイコ』『間違えられた男』『知りすぎていた男』があって、最後には作曲家のインタヴュー。演奏はエルマー・バーンスタイン。

2枚目には、ディミトリ・ティオムキン(1895-1979)、フランツ・ワックスマン(1906-1967)、ミクロス・ローザ (1907-1995)、リン・マレー (1909-1989)、デイヴィッド・バトルフ(1902-1983)による音楽を収録。前三者は自らが指揮をした演奏がはいっている。ローザが手掛けた『白い恐怖』は、6トラックにおよび、《“白い恐怖”協奏曲》がアルバムの最後を締めくくる。

名と生年を眺めてみると、19世紀の終わりから20世紀のゼロ年代の生まれがならんでいることがわかる。ほとんどは合衆国への亡命者。本人はそうでなくても、その子孫。かのエーリッヒ・コルンゴルドが1897年生まれだというのを想起できるなら、ひとつの指標となろう。

メロディのつくり方といい、オーケストラのならし方といい、効果も含めてのドラマトゥルギーへの理解といい、すばらしいメティエの持ち主ばかり。クラシック流、ジャズ/ポピュラー手法の書き分けもまた。そうした音楽がカメラやセリフ、もちろん女優や男優の顔や姿、動作、演技と一体になりながら、ヒッチコックの世界をつくりだす。みごとだ……。そしてヨーロッパ由来の芸術音楽が前衛的な方向にむかってゆくのと、こうしたかたちで多くのひとの耳に自然になじむ映画音楽とに分化する、その分水嶺をここにみることも。

ちなみに、「名作シネマとオーケストラ」という催しがある。大きなスクリーンに映画を映しながら、生オーケストラの演奏を重ねるという 「コンサート」。昨年は『スターウォーズ』や『ウエスト・サイド物語』がとりあげられてきたが、今年、7月19日から21日にかけては『カサブランカ』『雨に唄えば』、そして『サイコ』が登場。タイプの異なった3本ではあるが、『サイコ』が大きな画面と生オーケストラとで、どんなふうに迫ってくるのか、興味津々。あ、どうでもいいことだが、アルフレッド・ヒッチコック、わたしと誕生日がおなじである。ぴったり60年の差。これをひそかに誇りにおもっていたりするのである。

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