「映画は教えられない。映画とは体験だからだ」
ニコラス・レイの遺作『We Can’t Go Home Again』がロードショー公開されると聞いて、まず思ったのはあまりに「快挙」であるが故に甚だ心配だということである(誰が、とは聞かないで欲しい)。
私と同様に「快挙」を心配に思った方の殆どは、この映画を見に映画館へ行くと思われる、そういう方にはとにかく最高なので見て驚いて下さい!
ニコラス・レイ。ジェームス・ディーン主演の『理由なき反抗』(ディーンが赤ジャケットを着ている映画)の監督といえばいいか。八代亜紀も最近カヴァーした《ジャニー・ギター》が主題歌として有名な異色西部劇『大砂塵』の監督といえばいいか(『夜の人々』から続く傑作等詳細は劇場でも販売している『ニコラス・レイ読本』を参照のこと!)。とにかく後続の映画監督からのリスペクトが半端のない監督である。一番有名なところでは、ゴダール(「映画とはニコラス・レイのことである」評はあまりに有名)らヌーヴェルヴァーグの監督たち。エリセやカラックス。アメリカではスコセッシやコッポラ(本作の編集は彼の撮影所でも行われた)。そして、『ニックス・ムービー』というタイトルでレイの死までを共同監督名義で撮り上げたヴェンダース。実際に師弟関係にあったジャームッシュ。こうして名をあげてみても、凄いハリウッド監督なのはお分かりになると思う。
本作は監督引退後、ニューヨーク大学の映画学科の教職についたレイが生徒と共に製作した映画である。資金もない中で撮られた「自主映画」は、35ミリからビデオまで素材の違った映像を最大6つのマルチスクリーンで同時投影、おまけにナム・ジュン・パイクに影響を受けた「変容された映像」や時として電子音が入り乱れるという前代未聞な「実験映画」として現れたのだ。少なくとも拙者は他にこのような映画を見たことがない。なんなんだこれは?と思いながらも、アイパッチをした赤いジャケット(そうあのディーンと同じ赤なのだ!)の老体レイが無茶苦茶カッコイイ!とか、出てくる女優たちがみなとてもキレイとか、画面の瞬発力が半端ないとか、感情の爆発などに驚いているうちにあっという間に93分の上映時間は終わってしまうのだ。面白すぎる「なんなんだ? この映画」!
そんな本作はマルチスクリーン故に家庭の小さな画面で見ても全く意味がない。であるから是が非でも映画館で体感していただきたい。この貴重な「快挙」を逃さないで、ということである。「映画は教えられない。映画とは体験だからだ」とニコラス・レイも言っている。ただ、映画は待ってはくれない。とにかく映画館へ! 話はそれからでも十分だと思う。
映画『We Can’t Go Home Again』
製作・監督:ニコラス・レイ
脚本:ニコラス・レイ/スーザン・レイ
スタッフ:スティーヴ・アンカー/リチャード・ボック/ピア・ボード/他
キャスト:ニコラス・レイ/リチー・ボック/トム・ファレル/ジル・ギャノン/ジェーン・ヘイマン/レスリー=ウィン・レヴィンソン
配給:boid (1973-2011年 アメリカ)
映画『あまり期待するな』
監督:スーザン・レイ
撮影:ピーター・マッキャンドレス
編集:トム・ハネケ
ナレーション:スーザン・レイ
音楽:ティム・レイ/ストーミン・ノーマン
・ザムチェック/マーカス・デ・プレット
配給:boid (2011年 アメリカ)
◎6/15(土)より、新宿K’s cinemaにて2作品ロードショー!
http://www.boid-s.com
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