ニック・ケイヴが脚本と音楽で描く、30年代のアメリカ、禁酒法時代を生きた3兄弟の戦い
ニック・ケイヴは実に多才な男で、ミュージシャンの他にも小説家であり、時々役者もやっており、映画の脚本を手掛けるのは『欲望のバージニア』で3本目となる。前2作と同じく、オーストラリア時代の19歳頃からの盟友ジョン・ヒルコート監督(『ザ・ロード』)とのコンビによる作品だ。
この映画は1930年代の禁酒法の時代が舞台で、史実に基づく原作小説の表題にもなった「世界で最も濡れた郡」や「世界のムーンシャイン(密造酒)の首都」という呼称で知られたヴァージニア州フランクリン郡で、密造酒製造者のボンデュラント3兄弟と、裏取引を拒否した彼らを狙う特別捜査官との血生臭い抗争が描かれる暴力に満ちた作品だ。原題に「Lawless」(無法の)とあるように、主人公の兄弟は自分たちのルールで生きるアウトローで、本作は西部劇とギャング映画の中間を行くものとケイヴは言う。『俺たちに明日はない』や『ワイルド・バンチ』などの60年代後半のアメリカン・ニュー・シネマからの影響も窺える。
監督とケイヴには、禁酒法という法律がかえって、田舎での酒の密造から都会のギャングの暗黒街支配までの犯罪を横行させた時代を描くことで、現代社会の状況と共通する点を浮かび上がらせる狙いもあるようだ。「(この映画は)禁酒法が不当な政策だったと言っていると思う。現在の麻薬との戦争が不当な政策であるのと同じようにね。とにかく、僕の知る限りでは(麻薬との戦争は)効果を上げていないよ」
ケイヴはその過去と現代の相似を挿入歌でも表現する。彼はもちろんバッド・シーズのウォーレン・エリスと共に音楽も担当。舞台がアパラチア山脈のふもとだけに、当然オールドタイム・ミュージックを音楽に用いているが、おもしろいのはヴェルヴェット・アンダーグラウンド、キャプテン・ビーフハート、リンク・レイといったアーティストの曲をブルーグラス界の大御所ラルフ・スタンレー(今年で86歳)に歌わせていること。それで禁酒法時代と現代をつないだのだ。
「現代の曲を映画の中に入れることで観客の関心を物語からそらしてしまう危険があると感じている。そこで僕らはあの時代を少しでも経験しているラルフ・スタンレーのような人に「あの時代の感じで」それらの歌を歌ってもらった」とケイヴは説明する。
実際にラルフにそういった慣れない曲を歌ってもらう作業は難しかったそうだが、彼の歌う《ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート》はミキシング・セッションを覗きに来た作者ルー・リードをいたく感動させたという。サウンドトラックには、他にもエミルー・ハリス、ウィリー・ネルソン、マーク・ラネガンらが参加している。
映画『欲望のバージニア』
監督:ジョン・ヒルコート
脚本・音楽:ニック・ケイヴ 音楽:ウォーレン・エリス 出演:シャイア・ラブーフ/トム・ハーディ/ジェイソン・クラーク/ジェシカ・チャステイン/ミア・ワシコウスカ/他
配給:ギャガGAGA★(アメリカ 2012年)
◎6/29(土)ロードショー
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